ソラツチコラム

空と土プロジェクト10周年記念 ~空土のこれまでとこれから~

人「交」密度を高めるために、都市部で人材を育てる基盤を

川北秀人 さん

川北秀人

このユニークで貴重なプロジェクトのアドバイザーの末席に加えていただいて以来、毎年、積み重ねられていく取り組みについての報告を楽しみにしながら、筆者自身も日々、学ばせていただいている。誠に残念ながら、まだその現場に伺う機会を設けられていないのだが、アドバイザーの一人として、このプロジェクトの「これまでとこれから」についてお話しする機会をいただいたので、「事業の経過に関する評価」の視点と、「今後の方向の在り方」についての私見を述べさせていただきたい。

「都市と農山村が、お互い元気になる社会」は、どれだけ実現できたか?

空と土プロジェクトの目的 三菱他所グループとNPO法人えがおつなげてとの連携による「都市と農村部が、お互い元気になる社会」へ
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「空と土プロジェクト」は、「『都市と農山村が、お互い元気になる社会』へ」を目的に、その前提として「都市部」と「農山村」、それぞれが抱える課題を以下のように挙げている。

「都市部が抱える課題」=「希薄な人間関係、コミュニケーション不足に伴う、ストレス、孤立感の増大」

「農山村が抱える課題」=「高齢化、離農、行政サービスの低下による地域の崩壊(限界集落)」

すると、これまで現地で積み重ねられた実践を評価する原点として、「その目的がどれだけ実現できたか」「都市部・農山村、それぞれの課題をどれだけ解消できたか」、そして、その状況を踏まえて「都市部の住民や農山村の状況や環境の改善にどのように貢献できたか」が問われることになる。

上述の通り、残念ながら筆者は、本プロジェクトの現場や、そこに住む、あるいは都市部から参加する人々と直接お会いする機会を設けられていない。そのため、このプロジェクトの当初の目的と課題にどれだけの成果が得られつつあるのかについて、具体的な根拠にもとづいて述べることはできない。しかし、運営に携わられている方々から話を伺っているだけでも開墾されて再び農地となった面積や、そこで栽培された作物、それを原料に生み出された食品やお酒の量、都市部から現場に赴いた方の数、その方々同士が知り合いや友人になった関係の豊かさなど、社会にもたらされた影響は、定量化できる項目だけでも少なからずあると言える。

人「交」密度を高めるために、都市部で人材を育てる基盤を

しかし、これまでと同じスタイルで継続することで掲げられた目的が実現できると楽観はできない。農山(漁)村の課題の深刻化は、全国的に見れば進んでおり、都市部においても今後は加速度的に「高齢化」と「人口減少」が進むことになる。自分自身のことや、スマートフォンなどの小さな画面の中のフィクションだけでなく、都市部の住民が周囲の人との助け合いや支え合いを通じて、くらしや社会をより良いものにしていくことも、喫緊の課題と言える。都市部での助け合いや支え合いの拡がりは、人々の結び付きを楽しみ交流に価値があると実感する人々の拡がりである。「農山(漁)村部との接点づくりを促し、都市部と農山(漁)村部の双方の課題の解決を促す」という本プロジェクトが当初に描いた構想の真価は、まさにこれから、問われている。

全国各地で市民活動のお手伝いをさせていただいて今年で25年目となる筆者は常々、「地域の力は、人口密度より人『交』密度から」であると実感している。「そこに人がたくさんいるか」よりも、「そこにいる人々が、一緒にできることをどれだけ増やしているか」が、安心の向上や経済の循環を促し、地域の持続可能性を高める基盤となるからだ。

本プロジェクトの主宰者である三菱地所グループは、住宅の居住者はもとより、事業所の従業員やその顧客まで、毎日、百万人の単位に及ぶ都市部の住民と接点をもつ。その人々が、本プロジェクトに参加するためにも、「農山(漁)村部を訪れる+その産物を購入する」という現在のプログラムを頂点としつつ、より日常的かつ広域的に展開しうるプログラムを、都市部の中で形成すべき段階に入っている。

2019田植え
2019除草
2019稲刈り

具体的には、住宅で日常的に参加できる食や環境に関連するプログラム。たとえば、住宅の敷地内で樹木や草花・野菜などを育てるとともに、家庭の生ごみを堆肥にする活動と結びつけることで、楽しくおいしく活動に参加し続けるきっかけを設けることができる。ターミナル駅前のオフィスでも、テナント各社の健康経営や働き方改革の一環として、構内や近隣の緑地の整備など緑と触れるプログラムを専門家とともに手伝っていただくこともできるだろう。

これからの10年・20年を視野に入れたとき、本プロジェクトは、その名にある「空と土」に触れる人々の数も機会も、大きく増やし続ける必要がある。そのためには、同社が多様な団体と連携して、本プロジェクトを、都市部で人材を育てる基盤として育てる必要があると考える。

今後も、これまで以上に成果を積み重ねられるよう、本プロジェクトが進化を続けられることを期待し、そのお手伝いに微力を尽くしたい。

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者隔月刊誌「NPOマネジメント」編集発行人 川北秀人さん

川北秀人 Kawakita,Hideto

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者
「ソシオ・マネジメント」編集発行人

1964年大阪生まれ。1987年に(株)リクルートに入社。1991年に退社後、国際青年交流NGOの日本代表や国会議員の政策担当秘書などを務め、1994年にIIHOE設立。社会の課題解決に取り組む団体のマネジメントや企業の社会責任(CSR)への取り組み支援を行っている。NPO・市民団体と行政との「協働しやすさ」を7段階で評価する世界初の「協働環境調査」を2004年から5回にわたって実施するなど協働の基盤づくりを進めるとともに、地域自治組織の先進地である島根県雲南市の地域自主組織制度を、2006年の立ち上げ当初から支援するなかから「小規模多機能自治」の推進を提唱している。

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