中国の農業遺産「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」(浙江省湖州市)

東アジア世界農業遺産学会
2017年7月11日~13日、中国の浙江省湖州市で「第4回東アジア世界農業遺産学会」(ERAHS)が開かれました。日本からも約50人が参加しました。会議は年に1回、中国・韓国・日本の持ち回りで開催されています。認定地域の研究者と地域(自治体等)が参加し、研究や実践の成果を共有しています。

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「世界農業遺産」(GIHAS:以下ジアスと表記)認定地域は中国では11か所、韓国では2か所あります。また、それぞれ国内認定制度があり、中国では「重要農業文化遺産」、韓国では「国家農漁業遺産」と呼ばれています。日本では「世界農業遺産」が8、今年から始まった「日本農業遺産」も8か所認定されています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1.html

世界農業遺産を認定しているFAO(国連食料農業機関)は、「すべての人々が栄養ある安全な食べ物を手にいれ健康的な生活を送ることができる世界を目指しています。
このため、FAOでは ①飢餓、食料不安及び栄養失調の撲滅、 ②貧困の削減と全ての人々の経済・社会発展、 ③現在及び将来の世代の利益のための天然資源の持続的管理と利用、 を主要な3つのゴールと定めています。」 


世界農業遺産創設の経緯
2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発のための世界サミット」(WSSD)で、途上国の伝統的な農業や土地利用システムは持続可能な開発に貢献すると提言したことに端を発しています。背景には、世界各国で食糧増産に伴い農地の集約化、栽培作物の単一化、機械化などが進む中で、特に途上国において固有の農林業システムが失われていってしまうことへの危機感がありました。そこで、農法だけでなく、景観、文化、生物多様性などを含め一つのシステムとして認定し、保全していこうというコンセプトが固まり、2005年に中国の「水田養魚(浙江省青田県)が最初の認定地域となったのでした

ジアスは当初はFAOの中でイニシアティブと呼ばれるプロジェクト的な位置づけでしたが、昨年からプログラムへと格上げされ、特にSDGs(持続可能な開発目標)との関わりにおいて、その役割への期待が高まっているところです。

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桑基魚塘(そうきぎょとう)システムとは
今回のERAHSでは12日の会議に続き、13日はエクスカーションで宿泊施設近隣にある荻港村の「桑基魚塘(そうきぎょとう)」システムや町並み、博物館などの見学をしました。ここは国内の認定制度である「重要農業文化遺産」に2014年に認定されており、目下、ジアス認定を目指しているそうです。

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浙江省湖州市にあるデルタ地帯では、明の時代(1368年~1644年)から池を掘り、堤を築き、その堤に桑の木を植え、その桑の葉で蚕を育て、池では桑の葉や草、蚕の糞などを餌に魚を養殖してきました。この循環農漁法の仕組みは「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」と名付けられています。

魚を養殖している池では、魚の糞が池の底に溜まり、これがバクテリアによって分解され養分に富んだ泥となり、その泥を年一回桑の木の根元にかけて桑の木の肥料としています。
池には定期的に酸素を取り込む装置を設置し、溶存酸素量を一定に保つなど良好な水質が保全され、魚に良好な環境を作りだしています。

しかし近年、化学繊維の発明・普及により生糸や絹織物の需要が激減し、桑基魚塘という伝統の自然循環農法も衰退し、2000年頃にはほぼ消滅という危機にさらされたそうです。そこで、この優れたシステムを保存するために生態系の修復や保護活動が始められ、桑基魚塘の景観がよみがえってきたそうです。

古い町並みを歩き、運河を渡ると養魚池のエリアが広がっています。池の周りを散策する道路もコンクリートが敷かれ整備されています。農機具の倉庫の壁面には絵が描かれ、またいくつかの池には魚種とその量が記された看板も立っていました。

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農村観光

環境の修復と並行して荻港村の中に「荻港漁荘」(Digangyuzhuang hotel)という複合施設が作られました。
荻港村は古くから「天国の真ん中に荻港がある。」と言われているそうで、美しく、歴史が古く、観光資源も豊かです。

「荻港漁荘」は敷地内に宿泊施設(200室)、1000人収容のイベントホール、会議室、飲食スペース、土産物店、淡水養殖エリアなどがあります。

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敷地内施設図

敷地内の池で養殖された魚や野菜なども食材とし、この地域の食文化を賞味することができます。糯打ち、米酒造り、豆腐磨き、果物摘み等の観光体験活動も提供されているそうです。地元住民を300人ほど雇用。多くの賞を受賞するなど荻港漁荘は湖州市の新しい農村観光・開発の新たなモデルとして注目されています。

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桑茶をはじめ、桑の葉の6次産業化にも注力

また、施設の中には「桑基魚塘博物館」があり、館内では、桑基魚塘の歴史の解説、養蚕、繭(まゆ)から生糸を紡ぎだす実演、淡水魚を中心とした食文化などが紹介されています。
船や漁具、絹製品、台所などが展示され、地域の昔ながらの生活文化を知ることができます。地域固有の農林漁業や地域の暮らしの知恵と技がそこにはあります。

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中国の農業遺産戦略
なお、中国には「ハニ族の棚田」(雲南省)や「トン族の稲作・養魚・養鴨」(貴州省)など、少数民族の固有な農林漁業システムがジアスに認定されている地域が複数あります。中国政府は国内の少数民族や各地に残る固有の農林漁業システムを発掘し、その数は約400にのぼります。その中から優れたものを国内制度に認定し(約80)、その後体制や環境、振興策を整備し、ジアスに申請するというプロセスを取っているようです。

日本は地域から申請があったものを、世界農業遺産等国内専門家会議で審査し、まずは日本農業遺産に認定、その中から優れたものを世界農業遺産に申請するというプロセスになっています。農業遺産に注目が集まるにつれ、各地で地元に固有な農林漁業の方法・技術、食文化・社会組織などの歴史をたどり、生物多様性に関して調査し、美しい農山漁村の景観を保全していこうという動きが本格化することは意味のあることだと思います。

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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

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