3地域が認定に向けて挑戦中!「世界農業遺産」

「世界農業遺産」をご存知でしょうか?Globally Important Agricultural Heritage Systems(世界重要農業遺産システム)で、国連食糧農業機関(FAO)が2002年に始めた仕組みで、「社会や環境に適応しながら何世代にもわたり発達し、形づくられてきた農業上の土地利用、伝統的な農業とそれに関わって育まれた文化、景観、生物多様性に富んだ、世界的に重要な地域を次世代へ継承することを目的」(農水省ホームページより)としています。

単に伝統的な農法だけではなく、それによって保たれている豊かな生物多様性、農村の文化や景観等がシステムとして保全され、維持に努めている地域を選定するところに特徴があります。審査のプロセスは、2014年度から2年に1回の世界農業遺産専門家会議で選定された地域が、FAOに申請し認定されることになりました。


国内5か所の世界農業遺産
現在国内では5地域が認定されています。2011年6月、日本で最初に認定された2地域は、新潟県の「トキと共生する佐渡の里山」と、石川県の「能登の里山里海」です。続いて2013年5月に新たに3か所、静岡県の「静岡の茶草場農法」、熊本県の「阿蘇の草原の維持と持続的農業」、大分県の「クヌギ林とため池がつなぐ 国東半島・宇佐の農林水産循環」が加わりました。なお、世界では2014年6月現在、13カ国31地域が認定を受けています。

ジアス表.gif


静岡県の茶草場農法
認定地域の一つである静岡県掛川市の茶草場農法をご紹介いたしましょう。中心的地区である東山の粟ケ岳の中腹には"茶"という文字が浮かび上がっています。茶栽培のシンボルです。1932年に松(現在はヒノキ)を約1000本、縦横130メートルにわたって植え、描かれたものだそうです。

掛川茶草場4M.jpg

静岡県の茶産地のうち、掛川市、菊川市、島田市、牧之原市および川根本町には茶園約1万ヘクタール、8300戸の茶農家があります。この地域では伝統的にススキやササを茶園に敷く農法が行われてきました。茶園に敷くススキ等の採草地を「茶草場」と呼び、約440ヘクタールが茶畑の周辺に点在しています。

茶草場農法は①茶園土壌の保湿・保温に役立つ②土中の微生物の繁殖を助ける③やがて分解されて堆肥になる④土壌の流出を防止する⑤雑草の繁茂を抑制する、といった効果があります。茶草を定期的に刈り取ることにより、キキョウや、カワラナデシコ、ササユリなど300を超える草地生植物や、固有種、絶滅危惧種が存在していることが調査により明らかになっています。昆虫ではカケガワフキバッタという固有種がおり、ススキの新芽を食べます。

かつては日本全国で行われていた農法ですが、この地域の茶農家は手間はかかるが、お茶の味を良くするには欠かせないとして続けてきたことが、結果として豊かな生物多様性を保全することにつながりました。

chakusaba.jpg

草と言えば、同じく世界農業遺産の阿蘇も草地です。放牧、採草、野焼きなどにより草原を集落単位で共同管理し、畜産だけでなく稲作や畑作と緊密に結びついた形で草原を活用するなど、長年にわたり"草資源"を活用するシステムが維持されています。それに伴い、希少な動植物が集中的に生息しています。生物多様性が豊かな場所というと、有機農法の水田や広葉樹林などをイメージすることが多いかもしれませんが、茶草場や草原、茅場、葦原など"草地"の価値に改めて注目しています。

茶草場農法に熱心に取り組む東山地区のリーダーで茶農家の杉浦敏治さん(富士東製茶農業協同組合)は、これまでも地元の直売所「いっぷく処」の運営に関わるなと地域づくりに力を入れてきました。世界農業遺産に認定されたことで、地元の女性や若者が元気になってきたといいます。その一例が、お母さんたちが制作した茶草場のポスターです。皆で写真を撮り、コピーやシンボルマークも考えたそうです。地域への愛に満ちていて、気持ちが伝わる温かい作品に仕上がっていると思います。
杉浦さんは「今年、無農薬の茶畑もつくりました。これからは都市部の消費者との交流に力をいれていきたい。」と熱く語ってくれました。東山地区では茶草場ツーリズムに取組み始めたところです。

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新たに3地域が認定に向けて
2014年は国内の申請年で7地域が申請されました。一次審査に続く、現地調査の結果、岐阜県長良川上中流域の「里川における人と鮎のつながり」、和歌山県みなべ・田辺地域の「みなべ田辺の梅システム」、宮崎県高千穂郷・椎葉山地域の「山間地農林業複合システム」という3地域が新たな国内候補地域として農水省の承認を受けました。

私も世界農業遺産専門家会議委員として和歌山にうかがい、南高梅や備長炭の生産現場を拝見しました。山の中腹に梅林が広がり、山の上部に薪炭林、備長炭の原料となるウバメガシの森が広がっているという構図です。薪炭林と梅林の境には所々ミツバチの巣箱が置いてあります。ミツバチなくしては南高梅の受粉ができないとのことです。このように梅と炭の原料が同じ山で生産されていることを知り、大変感銘を受けました。

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今後、FAOの現地調査が予定されています。FAOの審査を通過すれば、 新しい3つの世界農業遺産地域が認定される運びです。今から楽しみです!


特色ある農業地域を継承する
世界農業遺産の申請準備には時間がかかります。しかし、農家、自治体の担当者、専門家・研究者、NPO、関連事業者などが、まさに一丸となって、地域固有の農法やその歴史、伝統野菜など農作物の品種、郷土料理、祭礼、そして希少な動植物などを深堀りし、それを保全する取り組みを可視化・価値化する。さらにそれを継続するしくみを検討し実践する。このプロセスは日本の農業や農村にとって、地域ならではのユニークさを磨くものであり、大変価値のある取り組みだと思います。

各産地は"世界農業遺産"という統一ブランドの下、共同で百貨店のフェアや商談会、ミラノ博などに出展するなど連携してプロモーションに努めています。日本人だけでなく、世界の方にも知っていただき、来ていただき、感じていただきたい日本の宝です

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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

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