生きものを育むお米 -蕪栗沼と「ふゆみずたんぼ」(宮城県大崎市)

今年も新米の季節になりましたね。どこの産地の、どんな品種の、どのように育てられたお米を食べていますか?

私はここ数年、福島県西会津町で作られているお米を年間まとめて申し込み、毎月宅配で直送してもらっています。あと足りない分を、各地に出張した際などに買っています。西会津のお米は知人のキノコ農家の80代のお父さんが作っているコシヒカリで、その田んぼは山の中腹にあり、その上には田んぼも人家もありません。ですからその田んぼの水は飯豊連峰の伏流水で生活排水が一切入らないものです。農薬は減農薬ですが、中山間地域の農業を少しでもサポートしたくて購入しています。味もとっても良くて食欲が進んで困るほどです。

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80代でも現役!会津のお米は美味しい


出張先で購入するお米は、農法や地域づくりに共感して選んでいます。
例えば兵庫県豊岡市。以前、このコラムでも紹介しましたが、1971年に一回絶滅したコウノトリを復活させようと、地域の人たちが一丸となって取り組み「コウノトリ育む農法」が導入されコウノトリは34年ぶりに復活しました。今では豊岡市には約40羽のコウノトリが棲み、上空を舞っています。この農法で作られたお米です。

※コウノトリ復活の物語 http://soratsuchi.com/owada/2009/08/post-6.html


◆コウノトリのお手本は大崎市蕪栗沼

今年4月、その豊岡のコウノトリが一羽、宮城県大崎市の蕪栗沼に飛んできました。蕪栗沼では毎年10万羽を超える渡り鳥が越冬している。コウノトリは羽を広げると2メートルにもなる鳥だから、鳥に慣れている大崎市の人たちも大いに驚きました。640km離れている兵庫県豊岡市から飛んできたのです。途中あちこちに立ち寄り約4,000kmの長旅の末、蕪栗沼に降り立ちました。なんでも"感謝状"を届けにきたのだそうです。

何の感謝状? それはマガンや蕪栗沼のおかげでコウノトリが復活できたから、その感謝の気持ちを表すものだといいます。
渡り鳥であるマガンの飛来地を保全するために、蕪栗沼周辺の農地を冬の間も湿地状態にしておく"冬期湛水"(冬の間も田に水をはる)をこの地域では実施しており「ふゆみずたんぼ」と呼ばれています。それを豊岡市は「コウノトリ育む農法」を確立する際に参考にしたのです。今でも双方の職員が人事交流したり、一緒にイベントや展示会に参加しています。知恵や情報の交換だけでなく、共に生物多様性を促進する農業を広く社会にPRし、他の地域への拡大や消費者への認知向上を目指しているのです。

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ふゆみずたんぼ(写真提供:大崎市)

大崎市は2006年に古川市、鳴子町、鹿島台市など1市6町が合併してできた市です。面積は宮城県下で3番目に広く、南北72kmにも及ぶ、人口13.6万人のまちです。
蕪栗沼は、大崎市東部の田尻(たじり)地域にある淡水湖。かつては1,000haを越える湿地でしたが、新田開発等で水田を造成し、河川改修を重ね、現在は150haになっています。ここにマガンやカモ類など毎年1万羽を超える渡り鳥が飛来し越冬してきたのですが、他の地域の湿地が減少する中で、飛来数は年々増えていきました。2000年頃にはその数は10万羽を超え、ねぐらや餌場の分散が急務となり、冬に使用しない沼周辺の水田に水を張ることで、その確保を図ることが検討されました。

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10万羽を超える水鳥が越冬

そして、2003年冬から農林水産省の「田園自然環境保全・再生支援事業」を導入し、沼周辺の水田で冬の間、田に水を張る「ふゆみずたんぼ」の実証試験が地域の農家10戸の参加を得て、20haで始まったのです。
当時田尻町の農政商工課長で「ふゆみずたんぼ」導入の旗振り役を務めた西澤誠弘さんは、自らも米の生産農家でした。
「冬場に水をはり、農薬や化学肥料を使わない稲作です。実際、ちゃんと育つのか心配でした。しかし、やらなければ蕪栗沼周辺の水質悪化や汚染が進み、マガンの生息地も確保できません。2003年は冷害でお米が不作でしたが、いち早く冬期湛水・有機農法で作っている農家のお米はちゃんと実っていたんです。それを見て私たち農家も決心がつきました。また、外部の専門家の協力も得ながら取り組み始めました。」
内心不安ではあったものの、「ふゆみずたんぼ」を開始しました。そして、翌年秋、みごとな稲穂が実ったのです。安心で美味しく、マガンや蕪栗沼を守るという物語のあるお米の誕生です。
販路は、初年度は㈱たじり穂波公社を通じ、二年目からはJAみどりのでも扱ってもらうようになりました。首都圏を中心にパルシステムや大手スーパーマーケットなどで販売されています。農家の手取りは1俵約24,000円ですから十分再生産可能な価格です。

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夕日が沈むふゆみずたんぼ


◆田んぼも含めて「ラムサール条約登録湿地」

こうして渡り鳥の餌場やねぐらを保全する活動が始まり、一部の水田が湿地に戻されるなど、「ふゆみずたんぼ」を採用した稲作は定着していきました。そして、2005年11月には蕪栗沼とその周辺の水田が「ラムサール条約登録湿地」に認定されたのです。登録範囲423haには259haの水田も含まれていますが、水田が含まれる登録湿地は世界でもここだけであり、単に湿地を保全するだけでなく農業という営みとの共存は貴重です。
農薬や化学肥料を使用しない水田の冬期湛水は、稲の切り株やワラなどの有機物が水中で分解され、微生物や藻が発生し,それを餌とする様々な生物が水田に集まってきます。また、冬期におけるこれらの生物の活動が「トロトロ層」という抑草効果のある層を水田に作り出し、無農薬・無化学肥料栽培を促進しているのです。

地域で「ふゆみずたんぼ」を推進するのは農家や行政だけではありません。「蕪栗ぬまっこくらぶ」と「田んぼ」というNPO法人が一緒に活動しています
「蕪栗ぬまっこくらぶ」は蕪栗沼を保全する活動を行うため現在、副理事長の戸島潤さんらによって1997年に設立され、2000年にNPO法人となりました。環境保全・環境教育・農業との共生を3つの柱として、行政や地域住民との協働によって、蕪栗沼の豊かな自然環境を未来に伝えることを目標に活動しています。

一方、NPO「田んぼ」は、ふゆみずたんぼをはじめ、環境に配慮した水田農法を普及させるために2005年に岩渕 成紀さんが設立しました。岩渕さんはぬまっこくらぶの理事でもあります。蕪栗沼をはじめ、全国の水田で活動を行い、生き物共生・環境配慮農法を広めています。
岩渕さんによれば「ふゆみずたんほは、江戸時代の『会津農書』貞享元年(1684年)の中に「田冬水」という表現として出ているんですよ。冬の間に有機物の多い菌類とイトミミズ・ユスリカなどの泥に棲息する生物たちが水中で活性化して農業の生産力が高まり、抑草効果があると、この時代の農家がすでに体感していたことがうかがわれるのです。」といいます。

マガンの早朝の飛び立ちや、夕方のねぐら入りの様子は壮観だそうです。朝焼けの空に、地響きのような音を伴って一斉に飛び立つその光景は多くの旅人を魅了しています。私も10月にはいよいよこのねぐら入りと、飛び立ちを見にいく予定です。

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日の出前、一斉に飛び立つ

6月にレポートした大崎市鳴子温泉地区で行われている「鳴子の米プロジェクト」は、"人と人の絆"を育むプロジェクトでしたが、蕪栗沼と「ふゆみずたんぼ」では"人と生き物の絆"が育くまれていました。

※「鳴子の米プロジェクト」については http://soratsuchi.com/owada/2010/06/post-12.html

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コメント(1)

返信林直樹 | 2010.12.14 - 19:46

すばらしい事例ですね!水田の湿地としての潜在力はとても高いと思います。

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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

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