2010年06月23日
あたたかいおむすび -「鳴子の米プロジェクト」(宮城県大崎市)
カウンターには10種類のおむすびが並んでいる。しおむすび、麹南蛮味噌焼き、梅干・のり、味噌漬け混ぜ込みなど。鳴子温泉地区(宮城県大崎市)に昨年12月にオープンしたおにぎり店「むすびや」。お米は地域で作られている「ゆきむすび」という品種を使っている。土日の営業で一日に70人余りのお客さんが来る。お店で働くのは20歳の専門学校生から50~70代の地域の農家のおかみさん達など10人が交代であたっている。
どれにしようか迷う
同店を運営するNPO鳴子の米プロジェクトの理事長、上野健夫さんの話をお聞きしてから、「こびるランチ」(600円)をいただいた。こびるとは農作業の休憩に食べる軽食「小昼(こびる)」のこと。おにぎり二つ、惣菜、浅漬け、具だくさんの味噌汁。お肉や魚が付かずとも十分にお腹いっぱいになる。こんなに美味しいおにぎりは東京では食べられない。地元産の食材を使っているからなのか、にぎっているお母さんたちの気持ちからなのか・・・ 新作はしょうがむすびだそうで、それもいただいてみた。ピリッとしてこれも美味しい。
こびるランチ。おむすびは梅干・のり、味噌漬け混ぜ込み
店内の内装は、地域の杉の間伐材を使用し、器も全てオリジナルで木製だ。味噌汁椀の口当たりの良いのには驚いた。これらの器や、おにぎりの具材など買い求めたいところだが、販売はしていないという。
農業専門学校生の柴田まりこさん。割烹着と姉さんかぶりのてぬぐい姿がかわいい
レジを担当していた若い女性に話を聞いてみると、『現代農業』という雑誌で、「鳴子の米プロジェクト」のことを知り、感動して現地を訪れ、「むすびや」で週末アルバイトをするようになったそうだ。仙台出身で、今は古川にある学生寮に住み、週末に車で鳴子に通っている。来春卒業だが、「卒業後もぜひ鳴子で仕事をしたい。暮らしたい」という。
◆ 鳴子の米プロジェクト
「鳴子の米プロジェクト」は鳴子地区の農家、旅館、自治体職員などによって2006年に始まった。鳴子温泉地区は、北は秋田県、西は山形県に接する県境の地域にあり、地区の暮らしや農業を支える水源の地、鬼首(おにこうべ)は、山に囲まれた典型的な中山間地域だ。冬は雪が深く、夏は気温が低く、日照時間も短い。米づくりに苦労してきた地域で小規模農家が多い。農家の高齢化も進み、耕作放棄地も増えている。また、米の価格の安さも米の生産を減らす大きな理由だ。鳴子地区ではこの10年で水稲面積は31%減り、118戸が離農している。耕作放棄地の増大は農村の景観を失わせる。
農村の景観。春(5月下旬~6月中旬)の田んぼには水が入り稲が植えられ、ツバメが飛び、カエルが鳴く。夏にはトンボやホタルが飛び交い、そして秋の田んぼには稲が干されている風景だ。鳴子地区の天日乾燥は"くいがけ"というものだ。稲の干し方は地域の気候風土によって異なり、旅情をそそる。こうした農村の景観が失われることは、鳴子温泉にとって重要な観光資源が失われることを意味する。
「鳴子の米プロジェクト」には、大きな農家、小さな農家、旅館やホテルなどの観光業、こけし工人、女性グループ、JA、役所などさまざまな人達が参加している。総合プロデューサーは農業・民俗研究家の結城登美雄さん。プロジェクトの目的は、競争原理や市場原理を越えて、関係者が支えあい、豊かな地域をつくっていくことだ。
まずは寒冷地向けに合う品種を探すことから始まった。市の職員で鳴子総合支所観光農政課(当時)の安部祐輝さんは県の農業試験場に走った。そして「東北181号」という品種に出会った。さっそく、3軒の農家で2006年春、試験栽培が始まった。
並行してプロジェクト会議、調査、レシピ開発などが次々と進められていった。「東北181号」は、低アミロース米という、ご飯として食べている「うるち米」と、餅などに加工する「もち米」の、中間の性質を持っている。粘りがあり、冷めても硬くなりにくいのが特徴だ。初めて収穫された米は水加減を何度も変えて炊き、試食された。
試験栽培を行った農家の曽根清さんは言う。「これまで鬼首ではうめえ米はできねえべ、と言われて悔しい思いをしてきたんです。それが、この米は水が冷たいところでもよく育って。そして試食したら皆がうまいって言ってくれて、本当にうれしかったですわ。」
試験栽培に取り組んだ曽根さん(5月19日撮影。田植え前)
翌 2007年3月のひな祭りに「東北181号」を使ったおにぎりなど料理が披露された。プロジェクトのシンボルマークが発表された。また「東北181号」は新品種に登録されることが決まり、鳴子から提案した「ゆきむすび」と命名された。雪深い地でこれからも人と人が結ばれていくことを願う思いからだ。
◆ 農家が安心して再生産できる価格
プロジェクトでは作り手である農家が安心して米を再生産できる価格として 1俵(60kg)18,000円が設定された。JA経由では12,000円前後が相場なので、6,000円は高い。食べ手は1kg400円(1俵に換算すると24,000円)で購入する。一俵当たりの農家の手取りと食べ手の購入価格の差額の6,000円は、NPO鳴子の米プロジェクトを通じて農業を志す若者たちの就農支援や、商品開発等に使う。この新しい地域づくりの仕組みが評価され2009年地域づくり総務大臣表彰も受賞した。
食べ手は鳴子温泉の旅館、県内外の消費者など約800人が購入をしている。田植えや稲刈り、くいがけには食べ手の人たちも応援にかけつける。毎年東京から参加している人もいるそうだ。今どき珍しく「鳴子の米プロジェクト」にはホームページが無い。「人と人、顔の見える範囲で伝え、信頼関係を作ながら広めているんです。」と理事長の上野さん。
理事長の上野さんも農家だ
そして食べ手は個人だけでなく県内の食品製造会社や仙台の弁当や東京の企業にも広がっている。購入価格は個人同様1kg当たり400円と変わらない。通常使用するお米の原価より高いが取り組みに共感し一定量を購入している。
プロジェクト5年目の今年、2010年の作付は40農家、16haにまで拡大した。
「鳴子の米プロジェクト」には、作り手と食べ手、つなぎ手といった人と人の"絆"がそこにはある。つながりを紡いで信頼関係を作ってきた。だから「むすびや」で出されるおむすびは、さめても温かいのだ。
「むすびや」。今日もこびるランチは売り切れ
(2010年5月19日、6月19日訪問)
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