土づくり、人づくり39年。「霜里農場」農場主 金子美登さん(埼玉県小川町)

今年このコラムでは、兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む農法」や、関西の遊休農地を活用する新ビジネス「マイファーム」などを紹介してきました。マイファームは、今年の「エコジャパンカップ」ビジネス部門 環境ビジネス・ベンチャー オープンで、で堂々大賞を受賞されました。エコの賞で農業関連の事業が受賞することも時代を現わしていますね。おめでとうございます。

※受賞一覧は以下からご覧いただけます 
http://www.eco-japan-cup.com/info/data/66_1.pdf

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さて、今年最後のレポートは関東、埼玉県小川町からお届けします。
埼玉県小川町は都内から約50キロ、池袋から東武東上線で70分。その人口3万人の町に、緑あふれる循環型の「霜里農場」があります。そこで農業を営む金子美登(よしのり)さんは、39年農薬も化学肥料も使わない農業を行ってきました。

酪農家の家に生まれ育った金子さんが、有機農業を始めたのは今から39年前の1971年のことでした。農業高校で畜産を学び、1968年に設立された農林水産省の農業者大学校に1期生として入学しました。1970年代初頭は水俣病など公害が問題になり始めていた頃で、『複合汚染』(有吉佐和子さん著)が朝日新聞の新聞小説覧に連載されたのは1974年のことでした。また、1970年は日本で"減反政策"が始まった年でもありました。金子さんは、この時、「農家はやる気を無くし、人々は米を大切にしなくなる」と思いました。

こうした中、安全でおいしいものを作るためには、化学肥料や農薬を使わず、自然の有機的な循環を活かして農業をすることだと思い至りました。そして、それまでも酪農の傍らで自給していた米と野菜を化学肥料や農薬を使わずに栽培し、直接消費者に届けよう、理解ある消費者と共に、有機農業による地産地消をすすめていこうと、一歩を踏み出したのです。

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変わり者が時代の主役に

しかし、当時は農薬を使わない農家は変わり者扱いされ、一人黙々と有機農業を続けるしかありませんでした。そして、支えてくれる消費者との出会いを重ね、生計が成り立つようになったのは8年後のこと。「日本有機農業研究会」で出会った友子さんと結婚しました。結婚式の主賓は、美登さん側が有吉佐和子さん、友子さん側が市川房枝さんでした。

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現在の「霜里農場」は、1.3haの農場の敷地内に畑、果樹園、母屋や納屋があり、百数十羽の鶏、合鴨、6頭の牛などが飼われています。四季を通じて多様な作物が栽培され、虫も益虫・害虫がバランス良く棲息し、牛や鶏、合鴨が鳴いています。そして近くに1.5haの田、1.7haの山林があります。

米、野菜、卵を定期的に40世帯の消費者に直接届けるという方法を取っています。その人たちに支えられ、また、その人たちの食を支えるという信頼関係がそこにあります。人とのつながりもまた有機的なのです。そして、金子さんは、「日本の食糧自給率を上げるには、このように農家が直接数十世帯の食を支えるような仕組みを作ることで可能だ。」と言います。

2006年12月に、日本でもようやく「有機農業推進法」が制定されました。変わり者の農業だった有機農業を、国として振興させていくという政策の転換です。有機農業の輪は各地に広がっています。そして、戦後60年かけて壊してきた自然や生態系、人と人との信頼などを、これからの10年、20年をかけて再生させる取組みでもあるのです。「自分たちで壊してきたのだから、そのプロセスの逆をすればいい。方法はわかっている。」と金子さんは言います。


有機の里が実現

金子さんが有機農業を始めて30年目の2001年、下里地区の16歳年上のリーダーが有機農業に転換したいと言ってきました。そこで、03年に大豆の集団栽培を、04年には小麦を、そして2007年には集落の大半の農家が有機米づくりに転換したのです。大豆は隣町の「とうふ工房わたなべ」が全量買い取っています。そして今年からお米についても大宮に本社があるリフォーム会社「オクタ」が社員のために全量買い取りをすることになりました。39年前に金子さんが一人で始めた有機農業でしたが、ようやく日本ではきわめて珍しい有機の里の実現が実現したのです。

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農家と市民が共同で運営するレストランもオープン

また、今年11月には地元で活動するNPO「生活工房つばさ・游」が「べりカフェ」( http://blog.goo.ne.jp/seikatukoubou_1953 )というレストランを開きました。農家と市民(女性が中心です)が一緒に運営にあたっています。農家は金子友子さんや、「風の丘ファーム」など、シェフは日替わりで料理やお菓子上手な主婦の方達が交代で務めています。水曜だけは近くのニュータウンで蕎麦屋を営むプロで、黒一点。いずれも、小川の野菜をふんだんに使ったメニューばかりです。特に土曜は「霜里農場」担当日ですが、TKG(たまごかけごはん)セット400円がお勧めです。飼料も全て自家製で平飼の鶏の産みたての卵。ご飯、お味噌汁の味噌、具の野菜、お醤油の原料ももちろん霜里農場製です。39年間、コツコツと、つくり続けられてきた"土"から育まれた野菜や卵の滋味をぜひ味わってみて下さい。

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私は今年1月の「霜里農場」見学会に参加しました。それ以来、毎月のように小川町に通い、ついには「霜里農場」の本まで書くことになり、取材を重ねているところです。30年来提携してきた消費者の方や、30年前から毎年預かってきた研修生、地元の豆腐店や酒造、さらに土壌の専門家や、有機農業運動を行ってきた人達などにお目にかかっています。いずれも、ジ~ンと来る話ばかりです。そして気持ちがジワ~っと温かくなりました。『複合汚染』まで遡って読み直してみたり・・・ ちょっと大げさですが、これからの農業そして、これからのしあわせについて、書きたいと意気込んでいます。

※この金子美登さんがNHK「プロフェッショナルの仕事の流儀」に2010年1月5日登場します。

※奇数月の第2土曜日、霜里農場見学会があります。次回は1月9日です。お申し込みは以下から。
 http://www.shimosato-farm.com/

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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

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