2009年09月26日
"根のある暮らし"から始まる新しい文化・地域 -石見銀山「群言堂」(島根県大田市大森町)
去年出版した『ロハスビジネス』(朝日新書)は、ビジネス編と地域活性化編からなっているのですが、地域活性化の事例の一つとして紹介しているのが「群言堂」という島根県太田市大森町、石見銀山で有名なまちにある年商10億円ほどの会社です。松場大吉さん、登美さん夫妻が90人の社員と共に、オリジナルの服や雑貨の製作・販売を手がけていますが、その事業は、単なるモノの製造・販売ではなく、日本の生活文化や技を活かした暮らしの提案です。去年は、その本社や関連施設のある石見銀山に3回訪問する機会を得ました。
このたび、群言堂や松場登美さんのルポルタージュ『起業は山間から』(森まゆみ著 バジリコ社)と『群言堂の根のある暮らし』(松場登美著 家の光出版)という2冊の本が出版され、東京(上野桜木)の古い民家、市田邸で記念の会が開かれ、久々に松場登美さんにお会いすることができました。
松場登美さん、森まゆみさん(09年9月)
「感謝の夜楽」と題された集いの会場には、地域づくりの研究者である西村先生や、元伊勢丹のカリスマバイヤーとして有名な藤巻さんから、坂田明さんら音楽家、日本文化研究の加藤エイミーさん、編集者やマスコミの方々など実に多彩な顔ぶれ。連休の最終日の晩にもかかわらず、登美さん、森まゆみさんゆかりの人々が約50人会しました。島根から運ばれた食材やお酒などを肴に、皆さまからのお話は遅くまで盛会でした。集い方にも質がある、とつくづく思った晩でした。
2冊の本が出版されたこの機会に改めて、「群言堂」、そして松場登美さんが考え、実践する"根のある暮らし"についてお伝えしたいと思います。
◆ 人口430人の小さな町のお店に年間10万人が訪れる
深く広がる緑の山あいに、赤茶色の屋根が連なる大森の集落があります。人口わずか430人ほどの町。日本最大の銀山だった石見銀山のある島根県大田市大森町。石見銀山遺跡とその文化的景観は、2007年7月、世界遺産に登録されました。銀山が活況を呈していた江戸時代には、20万人が住んでいたといい、銀山川に沿った街道には、今も武家屋敷や商家、神社などが点在し、江戸時代の面影が残っています。
山あいの小さな集落(08年8月)
その大森町には世界遺産に登録される前から、国内のみならず世界各地から人が訪ねてきていました。同地で四半世紀を超え、土地の力や日本の田舎暮らしを起点としたモノづくりをし、独自の世界観を創り上げてきた松場登美さんという一人の女性とに会いに来るのです。「群言堂」と名付けられた、服飾雑貨とインテリアのブランドの本社と本店がこの町にあります。店には年間10万人が訪れ、全国の百貨店や専門店でも商品は販売されています。
「群言堂」(08年12月)
季節を楽しむ商品が並ぶ(08年12月)
「群言堂」の中庭(08年8月)
1987年に、松場さんが最初にてがけたのは、地元の女性たちが作った和風パッチワークのポーチやエプロンを販売する一軒の店でした。しかしそこは単にモノを販売するのではなく、人の出会う場所を作ろうと、"コミュニケーションクラブ・ブラハウス"という看板を掲げたのでした。江戸後期、弘化4(1847)年に建てられた商家を入手し、1部屋だけ改装してオープンさせたものでした。その後、毎年一部屋ずつ改装し、18年かかって現在の姿まで再生させました。
◆ 復古創新。日本の田舎暮らしから生まれる「群言堂」のモノづくり
「日本人が生活で使ってきた道具は、本当に理にかなった使い方をしているものが多いですよね。かまどでご飯を炊くにしても、銅壺(どうこ)があってそこにお湯が沸くようになっていて、そこで洗い物もできてとか。随所にそんな知恵の詰まったものがありましたから、それらを残していきたいのです。」と登美さん。
「阿部家」の台所。かまどで炊くご飯は格別(08年5月)
登美さんは、石見銀山での暮らし、田舎暮らしから発想し、日本の素材、技を活かしたモノづくりを全国各地の職人さんや工場に制作を依頼してきました。日本人の繊細さやモノづくりの感性を、少しでも受け継いでいきたいからだといいます。古いものを復元しつつ、新しい価値を付加し創造する"復古創新"が「群言堂」のモノづくりのコンセプトです。
◆ 建物の意志を尊重し、再び命を吹き込む
松場夫妻は、これまでに縁あって6つの古い武家屋敷や民家を買い取り再生してきました。必ずしも青写真や中期計画があったわけではありません。自らが望むというよりは、気が付くとなぜか自分たちが再生をてがけることになっていたといいます。石見銀山本店、「群言堂」(ろうそくの家と呼ばれる交流・イベントスペース)、かやぶき屋根の「鄙舎」(ひなや。本社敷地内にあり、イベントや社員の休憩室として利用)、ワークステーション(本社)、「竹下家」(古民家、社員寮)、そして築230年の武家屋敷である「他郷阿部家」の6軒。いずれも廃墟同然に傷んでいたものを、大幅に改築し、新しい命を吹きこみ、働く場、暮しの場として蘇えらせました。
「群言堂」本社。かやぶきの家は社員休憩室!(08年5月)
「他郷阿部家」には、昨年、春、夏、冬と三回泊まらせていただきましたが、毎回、季節のうつろいやそれに合わせたしつらえが楽しませてくれます。食卓には旬の食材が並び、豊かなゆったりした時間を過ごすことができました。また、浴室もとびきりです。木製の浴槽は町内に住んでいた外国人アーティストによるもので、やや丸みを帯びています。和ろうそくをともしての入浴は初めての体験で、身体の芯から解放される感覚でした。寝室は蔵を改造した二階のベッドルームや和室など、いくつかから選ぶことができます。寝具や寝間着も群言堂オリジナルの、国産で上質なものです。靜かで深い眠りに誘われます。
冬は干し柿(08年12月)
庭先の季節の花を(08月12月)
浴室。和ろうそくの炎は大きい(08年5月)
登美さん、大吉さんも加わって。遅くまで話が盛り上がる(08年12月)
ところで、登美さんは大吉さんとは"愛のさめない距離!?"で町内別居をしています。登美さんは阿部家に住み、かまどでご飯を炊き、庭先の季節の野草を食材にするなど、"根のある暮らし"を実践しています。阿部家には紹介があれば泊まることができますが、単なる宿泊業だとか飲食業だとかいう位置づけではなく、縁のあった人の実家づくり、故郷づくり、田舎づくりをこの家を使って行いたい、都会から失われてしまったものを阿倍家を通じて伝えていきたいとおっしゃいます。
登美さんは、来訪者や若いスタッフに"根のある暮らし"をつないでいきたいと。根のある暮らしとは、地域に根ざした暮らしです。根が深く広く伸びているからこそ、樹木も何百年と青々と茂り続けることができるのですね。
※群言堂ホームページ http://www.gungendo.co.jp/

