コウノトリが空を舞い、人々と共生する田園 (兵庫県豊岡市)

今年、2月28日、「第4回 農を変えよう全国集会」が愛媛県今治市にて開催されました。テーマは、「食の再生は農の再建から、地域の再生から ─ それぞれの地域から食の再生のために農の再建を進めよう!─」というものでした。印象的な講演が多かったのですが、特に感銘を受けたのが、兵庫県豊岡市 中貝市長による「コウノトリと共に生きる 豊岡の挑戦」でした。

1971年に野生のコウノトリが絶滅して以来、さまざまな関係者の努力が実を結び、30数年の歳月をかけ、2005年に再び自然放鳥が実現しました。絶滅から30数年経って、再びコウノトリが空翔ける町を取り戻したという物語には参加者の大きな感動を呼びました。

以来、ぜひ現地に行ってコウノトリを見たい、コウノトリと共生する農業の現場を見たいと思っていたところ、縁あって8月9日に現地を訪問することができました。今回は、その様子と豊岡市の皆さんがどのような取組みでコウノトリと共生する暮らしを再現したのか、お伝えいたします。

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昭和30年代のコウノトリのいる風景が蘇った(写真提供:豊岡市)


◆ 田んぼの変化がコウノトリを追い込んで

かつてコウノトリは日本各地の農村にいたそうですが、昭和30年代以降の水田の圃(ほ)場整備や河川の改修によって川と田んぼが分断され、生きものの数が減り、コウノトリのエサが減っていきました。また農薬はコウノトリの身体にも悪影響を及ぼし、その数は減っていきました。そして、様々な保護活動を行ったにもかかわらず、昭和46年(1971年)、野生のコウノトリは絶滅しました。
 
野生のコウノトリの減少の一方で、昭和40(1965)年から人工飼育が行われるようになり、平成元(1988)年には25年ぶりに初の人工授精に成功し、以降毎年ヒナが生まれるようになりました。その数が増えるにつれ、なんとかもう一度、コウノトリと共に暮らす地域を取り戻したいと関係者は強く願うようになりました。コウノトリは体長約1.1メートル、羽を広げると2メートルにもなる大型の鳥です。一日に食べる魚や生きものは500グラムにもなります。コウノトリが野生で暮らすためには、農薬の使用を極力減らし、ドジョウやカエルなど生きものが沢山いる田んぼを取り戻さなければなりません。
 
◆ 「コウノトリ育む農法」の確立

コウノトリの放鳥に向けて、平成14(2002)年、兵庫県但馬県民局地域振興部にコウノトリプロジェクトチームが発足しました。今回の視察に同行くださった農業普及指導員の西村いつきさん※もその一人でした。コウノトリのエサとなる生きものが豊かに棲息する田んぼを取り戻すことが西村さんのミッションでした。

そのために、農薬を7割削減または、不使用、化学肥料も栽培期間中は不使用。オタマジャクシがカエルになるまで田んぼに水を残す中干しの延期、早期灌水または冬期灌水。雑草対策として深水管理(田んぼに深く水を張る)などの栽培技術が「コウノトリ育む農法」として確立されていきました。

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用水路の脇に生きもの用の池が作られている。
田の水が無くなると生きものは魚道を通って移動する。

 
平成15年に0.7haの田んぼで無農薬の稲作に着手し、平成21年の作付け面積は減農薬タイプ179ha、無農薬タイプ64haと対象地域の約10%まで広がっています。
「コウノトリの郷営農組合」と「豊岡エコファーマーズ」という2つの農家グループがこの農法を最初に導入しましたが、無農薬での稲作は経験がありませんでしたから、当初皆さんは雑草や病害虫を心配されたそうです。が、西村さんの栽培技術の普及への情熱が農家の方たちを徐々に動かしていきました。

「コウノトリ育む農法」は単に農薬や化学肥料を使わない農法というだけではありません。コウノトリのエサとなる多様な生きものを育み、地域に生物多様性を取り戻す。そこで作られたお米を食べた人の健康も育む、そしてお米や加工品の販売を通じて地域経済も元気になるというものです。

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ドジョウやカエルを食べる(写真提供:豊岡市)


◆ 再びコウノトリが空を舞う

平成17(2005)年9月、ついに最初の放鳥が行われました。34年ぶりにコウノトリが豊岡の空を飛翔したのです。放鳥の様子を見ようと約3000の人が現地を訪れ、またその模様はテレビでも放映されました。

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そして、平成19年には、放鳥したコウノトリが43年ぶりに自然界でヒナをかえしたのです。人工飼育、それは檻の中に閉じ込めることです。その人工飼育を始めたとき「いつか、きっと空に帰すから」とコウノトリと約束したそうです。その約束は34年の時を経て果たされたのです。

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43年ぶりに自然界でヒナが巣立った(写真提供:豊岡市)


かつては大きな松の木に巣を作りましたが、戦後伐採され、今では"人工巣塔"に枝を集め、卵を産み、ヒナを育てています。

今では、37羽のコウノトリが野生で暮らしています。豊岡の田んぼの上空を飛んだり、エサをついばんだりする景色は40年ぶりに日常のこととなりました。また、コウノトリを一目見ようと全国から年間50万人の人々が豊岡を訪れるようになりました。観光客の訪問もまた地域経済を豊かにしていきます。経済的に良い影響がありますが、コウノトリと一緒に暮らせる誇りや喜びといった心の豊かさも同時に住民の人たちは感じているのではないでしょうか。コウノトリは幸を運んでくる鳥なのですね。

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コウノトリの郷公園では人工飼育している鳥を見ることができる


◆ 環境創造型農業を積極的に進める兵庫県

さて、農法を確立した西村さんは今年4月、異動になりました。豊岡で確立したモデルを県全体に推進するという仕事が次のミッションです。兵庫県は国に先駆けて平成5(1993)年には「県有機認証制度」を創設し、有機農業を推進してきました。また農薬使用量の削減を積極的に進め、化学肥料や農薬の使用を50%以上減らした農産物に「ひょうご安心ブランド」(2001年~)として認証し普及に努めています。県を挙げて、人と生きものと地域の健康を促進する新たな農業が広がっていくに違いありません。


※西村いつきさん 2009年4月~兵庫県農政環境部農林水産局農業改良課 環境創造型農業専門員
 
※兵庫県立コウノトリの郷公園 http://www.stork.u-hyogo.ac.jp/

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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

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