2009年05月12日
生物多様性を重視した、1000ヘクタールの自然共生農場づくり(長野県飯島町)
NPOえがおつなげてが事務局を務める「関東ツーリズム大学」は一都10県をエリアとして、農山村で農林業の体験・交流活動を展開しています。今年3月には農水省の「田舎で働き隊」を、8拠点で実施し、90人を受け入れました。
その拠点の一つが生物多様性を重視した、1000ヘクタールの自然共生農場づくりを学ぶ長野県飯島町キャンパスです。拠点のマネジメントコーディネーターは日本獣医生命科学大学 名誉教授の松木洋一先生です。松木先生が現地にかかわるようになったのは、20年以上も前のことだそうです。当時の伊南農協(1996(平成8)年に合併して上伊那農協となる)は、新しい農業のあり方を常に模索し実践している積極的な農協で、松木先生は農協や町の職員の方達と共に様々な取組みを積み重ね、その集大成が「飯島町1000ヘクタール自然共生農場基本計画」としてまとまりました。

アルプスに囲まれた田園地帯(松木洋一先生撮影)
◆二つのアルプスの間に広がる田園地帯
飯島町は長野県の南部、伊那谷のほぼ中央に位置し、西に中央アルプス南駒ケ岳を仰ぎ、東には仙丈岳を中心に南アルプス連山を遠望する人口約1万1千人の田園地域です。飯島町へは中央自動車道、JR飯田線などで東京から約3時間、名古屋からは2時間ほど。江戸時代には、幕府の直轄領(天領)を支配する拠点陣屋(延宝五年1677設置)が置かれ、信濃の国や伊那県の政治上重要な役割を果たしていた歴史のあるまちです。
現在は、町全域の農地1000ヘクタールすべてを自然共生農場とする壮大な計画のもとに、生物多様性農村社会の実現にむけて取組みを進めています。昭和30年代の、化学農薬があまり使用されていなかった時代の多様な生物生態系の復活を目指しています。 全域でぼかし肥料(有機肥料を微生物によって醗酵(ボカし)たもの)を積極的に使用し、土の力を再生させ、農薬や化学肥料を半減させる農法に取り組んでいます。
"自然共生農場"とは、土の力を活かし、地域の自然環境や多様な生物の生態系を保全し共生する農業、農村づくりを推進する取組みのこと。そして、"農業者は自然の保護者"であるという理念でこの計画は作られています。
「飯島町1000ヘクタール自然共生農場基本計画」の5つの主要方策は以下の通りです。
1.自然・生態系を守り生かす共生農業への取組み
2.環境にやさしい農業の推進
3.生物多様性の復元
4.高い自然環境の価値を付加した農産物生産・流通の拡大
5.グリーンツーリズムなど新たな農業サービス事業の推進
※参考資料:「飯島町1000ヘクタール自然共生農場基本計画書」(2007年3月 飯島町営農センター)
近くの川。雪解けの水は冷たい
◆全農地をGISで管理
飯島町の農業を経営面からみると、1986(昭和61)年から全農家が参加する飯島町営農センターを核として地域複合営農に取り組んでいます。1989(平成元)年には、旧伊南農協(1996(平成8)年に合併して上伊那農協となる)が保有合理化法人となり農用地利用調整による地域農業振興政策を推進。1993(平成5)年に、農地の流動化の推進と中核的農業者に農地集積をはかることを目的とした農用地利用調整GIS(地理情報システムGeographic Information System)が導入され、現在まで活用されています。町の農地全体を4つの法人で運営しようという試みです。
こうした取組みが評価され、2002年には第31回日本農業賞(集団組織の部)大賞を受賞しています。なお、日本農業賞はJA全中、JA都道府県中央会とNHKが主催し、1971年(昭和46年)から実施されています。日本農業の確立をめざし、意欲的に経営や技術の改革と発展にとりくみ、地域社会の発展に貢献している農業者と営農集団を表彰しています。
◆アグリネイチャーいいじま
また、地域の自然資源を活用したグリーンツーリズムや、農商工連携事業、都市農山村交流事業などの受け皿として、地元住民と東京の専門家により「有限会社アグリネイチャーいいじま」が2002年に設立されました。同社は標高800mの地域にあり、3haの敷地内には水田、畑、果樹園、ビオトープ、馬の放牧場、宿泊施設、研修施設があります。農業体験や生き物観察、郷土料理づくりといったプログラム以外にも、乗馬も楽しむことの出来る施設です。毎年首都圏から小学生、高校生、大学生などが農業体験研修や生きもの調査に訪れます。
先日(5/1~2)、日本獣医生命科学大学の「人間動物関係論実習」の研修合宿に参加させていただきました。見学、体験、講座、ワークショップなどからなる二泊三日のプログラムでした。約40名の学生が参加し、野生動物の生態調査、牧場・聴導犬施設見学、乗馬など、人と動物の関係について多面的に学ぶ、とても質の高い内容のものでした。同大学の永松美希先生や時田昇臣先生など大学の先生方が企画し、信州大学の先生や、地元の専門家の方々の協力を得て実施されています。私は2日目のプログラムを見学させていただきました。
敷地内の溜池の周囲には何種類もの桜が
◆ハッチョウトンボが飛び回るビオトープ
敷地内にはビオトープや水路などがありますが、一部の水路はコンクリートのU字溝を撤去し、昔ながらの小川の姿に戻っている部分もあります。小川にはセリが生え、せせらぎがとっても心地よいものです。そして敷地内のビオトープでは、この時期でも「細身越年トンボ」という年を越すトンボの姿が見られました。ちなみにこのトンボ、冬の間は林の中で、茶色になって越冬し、春になると里に下りてきて水色に変わるんだそうです。
小川と馬
トンボといえば、ここのシンボルのトンボは「ハッチョウトンボ」だそうです。一円玉大の赤い小さなトンボです。日本列島では青森県から鹿児島県まで全土に点々と分布していましたが、幼虫の育つ、浸み出し水による浅いミズゴケ湿原が破壊されることによって著しく減少してしまいました。

ハッチョウトンボ(アグリネイチャースチュワード協会提供)
こうした自然・生態系を守り生かす、自然の保護者としての新しい農業者を育成するために「アグリネイチャービジネススクール」も開かれています。7月10~12日、二泊三日の集中講座があるので受講してみようと考えています。地元農業者との意見交換会や、「ビオトープ建設実習」「自然共生農業ブランドの開発」「水田・里山の生き物調査実習」など、講義と実習があります。農業によって作られた二次的な自然かもしれませんが、生物多様性が豊かな自然の保護者になってみませんか?
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