木造平屋建ての小学校は訪問者の心のふるさと(埼玉県小川町)

晴天、満開の桜が咲く下里分校に「MOZART」(モザート)というカフェが4月1日オープンしました。かつての用務員室をリノベーションしました。第4回「さくら祭り」いう年に1回のイベントに合せ、竣工式が行われ、沢山の人がお祝いしました。町長らによるご挨拶によれば、地方創生の予算で「地域資源PR樹拠点」として整備されたそうです。この地区は有機農業の里としても有名で、交流人口や移住者を増やす拠点にしていくのだと言います。運営は地元のNPO法人霜里学校が担います。NPO法人の名称は明治時代この地域に実際あった学校名を由来としています。

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第4回さくら祭りには3,500人ほどの来場がありました。分校の最後の卒業生の世代が25歳くらいなので、その子供や両親など三世代のグループが目立ちます。満開の桜の咲く校庭には有機農産物のファンの人、地元の住民など、ほんとに沢山の人たちが集い、お花見や再会を楽しんでいました。

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校庭には隣接する霜里農場(有機野菜)、町の中心部にあるマイクロブルワリー(地ビール)など有機農産物関連をはじめ、餃子や焼き鳥、うどんなど飲食店が18店出店。校舎内にも手工芸品やユネスコ文化遺産に認定されている和紙の体験などが行われていました。

この分校は国内でも早い時期(明治5年)に設置された小学校の一つである小川小学校の分校として下里地区に1901(明治34)年に開校され、1964年(昭和39年)に現校舎が新築、その後2003年に休校、2011年3月に廃校となりました。

分校の魅力は、木造の懐かしい雰囲気にもあります。アニメ「のんのんびより」の舞台のモデルと言われていてアニメファンの来訪も多くあります。映画「春なれや」のロケも行われました。また里山の景色が美しいことからサイクリストやハイカーなども通年多く立ち寄っています。私もそんな下里に魅せられている一人でした。

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2012年に、分校をいずれは地元で管理運営していきたい、そのために交流人口や下里のファンづくりをしようとワークショップが何回か開かれました。そこから生まれた取り組みが「有機野菜塾」という月1回の塾と、貸し菜園「桜ファーム」でした。その運営をするためにNPO霜里学校が、次の時代を担う30代、40代を中心に設立されたのです。2014年からは分校の管理をNPOが担うようになりました。

私も有機野菜塾の1期生として、また「桜ファーム」を一角お借りして、有機栽培でのやさい作りを始めました。自宅は世田谷なので車で片道90分はかかります。せいぜい月に2回しか通えませんが、6年目の今年も野菜づくりは続けています。有機野菜塾も桜ファームも継続され、下里のファンが着実に増えています。

2015年4月5日には第1回さくら祭りが開かれ、校舎も公開され(通常は校舎内には立ち入れない)ました。校舎内の廊下には小学校として使用されていた頃の写真が常設展示されています。さくら祭りに訪れた卒業生やその父母らはそれらの写真を懐かしく眺めながら昔話に花を咲かせていました。閉校になった学校は地域の歴史を後世につないでいく重要な拠点であると改めて思いました。もちろんアニメファンの方たちも沢山来ていました。運営はボランティアグループが手伝ってくれました。

第1回さくら祭りでは、NPO代表で分校の卒業生である安藤和広さんはこう語っていました。
「分校に通っていた当時の思い出といえば、校舎の中や校庭で楽しく遊んでいた記憶しかありません。自分の中ではいつまで経っても楽しかった分校ですが、今では地域に子どもの姿を見ることは少なくなってしまいました。里山が"人=里と、自然=山の共生"で成り立つものであるように、校舎もそこに人が集まってこそ価値があります。分校は訪れる人全員の心のふるさととなれる場所です。地域の人達、都市住民、子どもたち...再び多くの人の楽しむ声が響く場所となるべく活動を続けていきます。」

あれから3年、その活動は町や県の注目を集め、同NPOでは移住促進業務も担うようになりました。昨年1年間で2地域居住も含め21世帯の移住があったといいます。本日フリーペーパーの『小川そだち×小川ぐらし』も初お目見え。

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都心部から50kmと通勤圏ではありますが、埼玉県の中では"消滅可能性"が2番目に高いと指摘された小川町。30代、40代を中心に、また有機の里、美しい里山の暮らしに憧れるシニア層の熱い視線を集め、すでに多くの人の心のふるさとになっているのではないでしょうか。

日本の食文化を味わおう SAVOR JAPAN

3月21日~22日、福井県小浜市で「SAVOR JAPAN全国ネットワーク会議」とエクスカーションが開催されました。

「SAVOR JAPAN」とは、日本全国の農山漁村から、地域ならではの豊かな食文化を有する魅力的な農山漁村を選定し、海外に発信していこうという制度です。農林水産省が2016年度から設けたもので、厳正な審査により、2017年12月現在、15の地域を農林水産大臣が認定しています。
「海外における日本食・食文化に対する関心は、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録、ミラノ国際博覧会等を通じて近年大きく高まっており、日本を訪れて「本場の日本食」を体験したいという外国人のニーズも高まって」いるそうです。

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初年度は「食と農の景勝地」という名称でしたが、地域の食文化に関心を持つ外国人旅行者の増加に対応し、2年目から「農泊・食文化海外発信SAVOR JAPAN」に変わりました。特に外国の方に日本のオーセンティックな食文化を体験し、交流や体験を通じ日本の食を深く知っていただくことを目指しています。
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/keisyoti_kentokai/

初年度に選ばれている5地域には、北海道の十勝や、徳島県にし阿波地域などがあります。外国人を意識して、英語の動画や取材記事が掲載されています。
https://savorjp.com/en/

会議では事務局を担っているJTB総研の方から「JTBでは『る・る・ぶ』という雑誌を出しています。当初は"見る・食べる・遊ぶ"を重視してきましたが、近年は旅の目的が変わってきました。最近は"体験する・交流する・学ぶ"を読み替えて編集を進めています」とお話がありました。

私も宮崎県の世界農業遺産 高千穂郷・椎葉山地域で「農泊推進対策」という農林水産省の事業のアドバイザーとして関わっていますが、なるほど今年度実施したツアーのいずれも、その3要素を柱にしていました。この高千穂郷・椎葉山地域も「SAVOR JAPAN」に2年目に選ばれました。九州ではまだここだけです。他の地域は浜松のうなぎとか、讃岐のうどんなど、地名を聞くとそこの名物料理が思い浮かぶ地域も多いのですが、そのような代名詞的な料理は高千穂郷・椎葉山地域にはありません。

そこで注目したのが地域内の各地で伝承される神楽で振るまわれる伝統料理や、焼畑で作る蕎麦など雑穀を素材としたお料理でした。"神楽料理""焼畑料理"と名付け、SAVOR JAPANに認定されたのです。山間地の暮らしで育まれた継承されてきた豊かな食文化。世界農業遺産(GIAHS)認定地域であり、郷土食と森林セラピー、暮らし・文化 体験などをプログラム化した「ジアスツーリズム」を推進しています。

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なお、会議開催地である福井県小浜市は2000年から「食のまちづくり」を開始し、翌2001年「食のまちづくり条例」を制定するなど、熱心に取り組んでこられました。古代より豊富な海産物で朝廷の食文化を支えた「御食 国(みけつくに)」としての歴史があります。また、若狭湾の幸は京都に運ばれていったそうで、特に当時は鯖が多かったことから"鯖街道(さばかいどう)"と呼ばれるようになりました。

現在、鯖の漁獲量は減ってしまっているのですが、鯖を糠(ぬか)で漬け発酵させる"へしこ"や"なれずし"など鯖料理が今も郷土料理として数多く伝承されています。また、若狭塗箸に代表されるように日本一の箸の産地でもあります。何より立派な「食文化館」には驚きました。地元のみならず、和食文化に関する充実した展示や、各種体験を行うことができる施設になっています。

ちなみに体験としては、初日は若狭塗箸を削る(紙やすりでこすって柄を出す)体験をし、晩は漁家民宿で海の幸を堪能。翌日は "へしこ"の製造現場、鯖の養殖場、鯛の体験場を見学。鯖の漁獲量はかつての1/10以下に減ってしまったころから養殖にチャレンジ。湾内にいけすを設置し、3年目の今年は1万匹の出荷を目指しているそうです。鯛の食育体験場は、港にある釣り場で鯛を釣って、さばいて、焼いて食べる施設。地元の漁師さんたちが自分たちで小屋を建てたところから始まったそうです。今では立派な建物になっていますがが、全国から4,000人を超える沢山の子どもたちが教育旅行で来訪される人気の場所です。外国人も増えているそうです。

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会議の会場でへしこを使った手毬ずし、鯖のなれずし、鯖ずし、焼き鯖汁を試食しました。

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全国各地のSAVOR JAPAN地域、いずれもその風味や風景は風土から生まれることを感じた二日間でした。

世界農業遺産・椎葉村でつづく「焼畑」 (宮崎県椎葉村)

「焼畑」と聞くと、森を焼く環境破壊のイメージがありませんか?
椎葉の焼畑は、多様な作物を輪作栽培し、長期間の休耕期間を設ける循環型の農法で、古来から続けられ、手順や種が継承されている取り組みです。焼畑継承者である椎葉勝(しいば・まさる)さんの家では毎年毎年山を焼いてきました。毎年8月上旬、木材を伐採した跡地に火入れをし、ソバを蒔く。2年目はヒエやアワ、3年目小豆、4年目に大豆を、その後植樹を行い20~30年ほど休耕し、再び木材を伐採して焼畑を行うという仕組みになっています。若い森が維持されるのでCO2の吸収量も多い、むしろ環境保全型の取組と言えるでしょう。

昨年8月3日は、同地域が世界農業遺産に認定されて後の初めての火入れということもあり100人ほどが参加しました。村内の夜狩内(よかりうち)という地区でも認定を機に50年ぶりに焼畑が復活しました。
また、昨年度は「焼畑研究会」やシンポジウムの開催等を通じ、地元関係者の間では焼畑の後には広葉樹を植えて豊かな水源林を再生させていきたいと、森づくりへの関心が高まってきました。研究会では有識者や地元の長老などを講師に椎葉の焼畑について学び合い、併せて既存の文献等を調査し『椎葉の焼畑』という冊子や動画が制作されました。
※動画 https://www.youtube.com/watch?v=2pWOmr2cc3k


焼畑 火入れ
2017年8月3日。予定では9時から火入れが始まることになっていましたが、台風5号の接近で午後から雨が降ってくる予報でしたので早めに開始されました。私が現地に着いたときにはすでに火が入り始めていました。火入れ前に行う神事には立ち会うことができませんでした。

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火入前の神事

また、通常は火入れを行う場所の周囲に防火帯を作った後、火を上の方、周囲、下の方につけ、自然と中央部に燃え広がり、最後には自然と消えるのですが、今年は当日朝の小雨などもあり葉が湿っており、燃え広がることが無く、3割程度にとどまりました。

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人と人とのつながり
燃え残りが多いものの、午前で火入れを終えました。昼食前に参加者全員が自己紹介をします。隣村(熊本県水上村)のグループ(椎葉勝さんの指導を受け3年前から焼畑を実施)、地元住民や同地区ので焼き畑を継承するグループ「焼畑蕎麦苦楽部」のメンバー、宮崎大学教員、県庁・支所職員、周辺自治体や首都圏からの参加者など、総勢100人ほどが今年も参加しました。
 
「明日焼くヤボは今日焼け」という言い伝えがあるそうです。晴天が続き、さあ明日焼こうと思うと雨が降ることかままあることから、今日のうちに焼いてしまいなさい、という意味なんだそうです。勝さんは「3日に焼くことに決めて、こうやって多くの人が集まってきてくれる。天気も大事だが、人と人とのつながりも大切にしていきたい」と
  

昼食交流会そして直会(なおらい)
昼食はカレーや地元の新鮮野菜、漬物などを食べながら休憩・交流です。通常ですと午後からはソバの種をまくのですが、あいにくお昼の途中から雨が降ってきてしまい、午後の種まきは中止になりました。(その後、8日にソバの種まきが行われたそうです)そこで昼食後には引き続き直会が始まり、17時頃まで交流は続いたのでした。「ひえつき節」という椎葉発祥の民謡や、いくつかの歌が披露され、ショートスピーチなどもあり賑やかに楽しい時間は過ぎていきました。

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私は今年は首都圏から大人10人、子供4人で参加したのですが、同行された方たちには、何より地域の人たちとの交流が印象的だったようです。


焼畑蕎麦のコース料理
翌日の昼食には那須翔仁(なす・しょうじ)さんによる「焼畑蕎麦コース料理」をいただきました。
那須さんは、宮崎のお蕎麦屋さんで10年修行し、昨年春Uターン。昨年50年ぶりに焼畑を復活した夜狩内にお住いです。食を中心に地域づくりを担っていきたいと言います。夜狩内で栽培・収穫された蕎麦を使ってのお料理でした。ちなみに蕎麦の種は椎葉勝さんから譲り受けたものです。

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焼畑蕎麦料理。宮崎の郷土料理も


蕎麦好きが高じて蕎麦スイーツの製造・販売をされている小池ともこさん(そばの実カフェ「sora」)は椎葉の焼畑を見たくて、蕎麦が食べたくて東京からはるばる来訪されました。
那須さんの蕎麦を食べた感想は「香り深く、芳醇な香り、甘み、椎葉の山々の自然への感謝を感じながら頂きました」と。

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首都圏から参加された皆さんと椎葉勝さん


天候に左右される焼畑ですが、地域の人たちの思い、共感する人たちの思いが重なり、自然と共生する農法は今後も続いて行くでしょう
蕎麦は蒔かれて75日で収穫です。10月中旬には今年の新蕎麦が実ることでしょう。2年目のヒエ、3年目のアワなどもその頃が収穫の時期です。今年は焼畑雑穀の収穫にでかけてみたいと思います。

中国の農業遺産「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」(浙江省湖州市)

東アジア世界農業遺産学会
2017年7月11日~13日、中国の浙江省湖州市で「第4回東アジア世界農業遺産学会」(ERAHS)が開かれました。日本からも約50人が参加しました。会議は年に1回、中国・韓国・日本の持ち回りで開催されています。認定地域の研究者と地域(自治体等)が参加し、研究や実践の成果を共有しています。

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「世界農業遺産」(GIHAS:以下ジアスと表記)認定地域は中国では11か所、韓国では2か所あります。また、それぞれ国内認定制度があり、中国では「重要農業文化遺産」、韓国では「国家農漁業遺産」と呼ばれています。日本では「世界農業遺産」が8、今年から始まった「日本農業遺産」も8か所認定されています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1.html

世界農業遺産を認定しているFAO(国連食料農業機関)は、「すべての人々が栄養ある安全な食べ物を手にいれ健康的な生活を送ることができる世界を目指しています。
このため、FAOでは ①飢餓、食料不安及び栄養失調の撲滅、 ②貧困の削減と全ての人々の経済・社会発展、 ③現在及び将来の世代の利益のための天然資源の持続的管理と利用、 を主要な3つのゴールと定めています。」 


世界農業遺産創設の経緯
2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発のための世界サミット」(WSSD)で、途上国の伝統的な農業や土地利用システムは持続可能な開発に貢献すると提言したことに端を発しています。背景には、世界各国で食糧増産に伴い農地の集約化、栽培作物の単一化、機械化などが進む中で、特に途上国において固有の農林業システムが失われていってしまうことへの危機感がありました。そこで、農法だけでなく、景観、文化、生物多様性などを含め一つのシステムとして認定し、保全していこうというコンセプトが固まり、2005年に中国の「水田養魚(浙江省青田県)が最初の認定地域となったのでした

ジアスは当初はFAOの中でイニシアティブと呼ばれるプロジェクト的な位置づけでしたが、昨年からプログラムへと格上げされ、特にSDGs(持続可能な開発目標)との関わりにおいて、その役割への期待が高まっているところです。

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桑基魚塘(そうきぎょとう)システムとは
今回のERAHSでは12日の会議に続き、13日はエクスカーションで宿泊施設近隣にある荻港村の「桑基魚塘(そうきぎょとう)」システムや町並み、博物館などの見学をしました。ここは国内の認定制度である「重要農業文化遺産」に2014年に認定されており、目下、ジアス認定を目指しているそうです。

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浙江省湖州市にあるデルタ地帯では、明の時代(1368年~1644年)から池を掘り、堤を築き、その堤に桑の木を植え、その桑の葉で蚕を育て、池では桑の葉や草、蚕の糞などを餌に魚を養殖してきました。この循環農漁法の仕組みは「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」と名付けられています。

魚を養殖している池では、魚の糞が池の底に溜まり、これがバクテリアによって分解され養分に富んだ泥となり、その泥を年一回桑の木の根元にかけて桑の木の肥料としています。
池には定期的に酸素を取り込む装置を設置し、溶存酸素量を一定に保つなど良好な水質が保全され、魚に良好な環境を作りだしています。

しかし近年、化学繊維の発明・普及により生糸や絹織物の需要が激減し、桑基魚塘という伝統の自然循環農法も衰退し、2000年頃にはほぼ消滅という危機にさらされたそうです。そこで、この優れたシステムを保存するために生態系の修復や保護活動が始められ、桑基魚塘の景観がよみがえってきたそうです。

古い町並みを歩き、運河を渡ると養魚池のエリアが広がっています。池の周りを散策する道路もコンクリートが敷かれ整備されています。農機具の倉庫の壁面には絵が描かれ、またいくつかの池には魚種とその量が記された看板も立っていました。

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農村観光

環境の修復と並行して荻港村の中に「荻港漁荘」(Digangyuzhuang hotel)という複合施設が作られました。
荻港村は古くから「天国の真ん中に荻港がある。」と言われているそうで、美しく、歴史が古く、観光資源も豊かです。

「荻港漁荘」は敷地内に宿泊施設(200室)、1000人収容のイベントホール、会議室、飲食スペース、土産物店、淡水養殖エリアなどがあります。

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敷地内施設図

敷地内の池で養殖された魚や野菜なども食材とし、この地域の食文化を賞味することができます。糯打ち、米酒造り、豆腐磨き、果物摘み等の観光体験活動も提供されているそうです。地元住民を300人ほど雇用。多くの賞を受賞するなど荻港漁荘は湖州市の新しい農村観光・開発の新たなモデルとして注目されています。

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桑茶をはじめ、桑の葉の6次産業化にも注力

また、施設の中には「桑基魚塘博物館」があり、館内では、桑基魚塘の歴史の解説、養蚕、繭(まゆ)から生糸を紡ぎだす実演、淡水魚を中心とした食文化などが紹介されています。
船や漁具、絹製品、台所などが展示され、地域の昔ながらの生活文化を知ることができます。地域固有の農林漁業や地域の暮らしの知恵と技がそこにはあります。

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中国の農業遺産戦略
なお、中国には「ハニ族の棚田」(雲南省)や「トン族の稲作・養魚・養鴨」(貴州省)など、少数民族の固有な農林漁業システムがジアスに認定されている地域が複数あります。中国政府は国内の少数民族や各地に残る固有の農林漁業システムを発掘し、その数は約400にのぼります。その中から優れたものを国内制度に認定し(約80)、その後体制や環境、振興策を整備し、ジアスに申請するというプロセスを取っているようです。

日本は地域から申請があったものを、世界農業遺産等国内専門家会議で審査し、まずは日本農業遺産に認定、その中から優れたものを世界農業遺産に申請するというプロセスになっています。農業遺産に注目が集まるにつれ、各地で地元に固有な農林漁業の方法・技術、食文化・社会組織などの歴史をたどり、生物多様性に関して調査し、美しい農山漁村の景観を保全していこうという動きが本格化することは意味のあることだと思います。

みどりの風が吹く"疎開"の町(鳥取県智頭町)

一年ほど前、「たき火」をシンボルとしたライフスタイルについて書いたことがあります。
「たき火フェスタ」というイベントが2016年2月28日、島根県吉賀町柿木村にて開催されました。日本有数の清流である高津川の流域である津和野町、吉賀町、そして益田市の住民向けのイベントでした。

チラシの裏面には「いま、高津川流域ではIUターンをはじめ、多くの子育て世代家族の移住がふえています。それは、ここ高津川流域の豊かな自然の環境中で生活・子育てをしたいと考える親世代が増えているからです。そうした中で「高津川」「たき火」「子育て」「食」「先人の知恵」をキーワードに、親、子、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなで高津川流域の美味しいものを囲んでたき火であたたまり、語り合い、一緒に愉しい時間をすごしましょう」と書かれていました。

実際にイベントに参加してみると、まさにそのコピー通り、たき火を囲んで子供からお年寄りまで楽しそうに過ごしている姿がそこにありました。話を聞いてみると、IUターンなど移住者の方たちが多く、その人たちは新しい仕事として自伐林業や木質バイオマス活用、有機農産物の加工を行い、子育てに"森のようちえん"など屋外保育を利用しているというのです。

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◆ 森のようちえん「まるたんぼう」
森のようちえんといえば、鳥取県智頭町の「まるたんぼう」(2009年開始)が有名です。先日7年ぶりに智頭町を訪問し、その主宰者である西村早栄子さんと再会してきました。私が以前取材したのは東日本大震災前の2010年でした。震災後に智頭町にも30代の子育て世代のIUターンが増えました。その家族は子供を森のようちえんに通わせ、大人たちは森の仕事を始める人が少なくなかったそうです。今では3~5歳のクラスには26人が地元や鳥取市内などから通っていますが、その全員が移住者の子どもたちです。


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森で遊ぶ(2010年7月筆者撮影)


この7年間で、森のようちえんは全国各地に広がり、例えば長野県では、屋外での自然保育に注目し、県として「信州やまほいく(信州型自然保育)」という名称で制度化し、全域で推進しているところです。
県のホームページには「子どもの自己肯定感の向上に効果があるとされる森のようちえん等の自然保育を、戦略的な保育および幼児教育資源として活用し、豊かな子育て環境の整備を通じて子育てにおける保護者のストレス軽減を図り、さらに子育ての楽しさを実感していただくことで、少子化傾向の改善に取り組みます。」とあります。


森林セラピーにも注力
鳥取県智頭町は93%を森林が占める人口7,377人(2017年3月現在)の町です。電車で東京から行く場合、新幹線で姫路へ、そこから特急の乗り換え1時間ほどです。江戸時代から伝統的な育林技術と恵まれた気候条件のもとで、智頭スギを中心に長伐期林業を行ってきた歴史ある先進林業地です。また芦津渓谷は、春は新緑、秋は原生林の紅葉が全山を覆い、その雄大な渓谷美は日本屈指ともいわれています。

林業はもとより、2009年は「森のようちえん」開園(4月)、「森林セラピー推進協議会」設立(7月)、翌年4月「森林セラピー基地」の認定、2011年 「智頭町森林セラピー基地」グランドオープンするなど、森を活かした新しい事業に力を入れてきました。昨年度には東京の企業が2泊3日の「智頭町留学」を研修として行い、森林セラピーや農林業作業を体験するなど、いよいよ企業向けのプログラムに注力する計画です。
http://www1.town.chizu.tottori.jp/town/

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森を仕事にする「智頭ノ森ノ学ビ舎」
IUターンなど若手による森の仕事を作ろうと2015年9月に結成されたのが「智頭ノ森ノ学び舎」です。
町が町有林57haを無償で団体に貸与し、自伐林業の手法など林業を習得する研修を実施しています。

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    左)智頭ノ森ノ学ビ舎 代表 大谷訓大さん 右)鳥取大学 家中茂教授

メンバーが伐採した間伐材は町営プールの薪ボイラーに供給されています。また、町内では薪ストーブの利用も促進しています。地域通貨も活用されており、木材の地域での活用の仕組みが定着しつつあります。

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◆ ローカルビジネスの騎手「タルマーリ」
2015年6月に開業した人気のカフェ「タルマーリ」。私が同店を訪ねるのは3回目のことです。一回目は2011年に千葉県いすみ市、二回目は2013年に岡山県真庭市でした。小さなお子さんのいる渡邊格・麻里子夫妻は東日本大震災後に関西に移住しようと店を岡山に移転。ビールの製造には手狭だったことから、智頭町に再度移転したということです。

地元で採取した酵母を使った天然酵母パンや、クラフトビールの製造・販売、カフェの営業を行っています。廃校となった保育園の施設を改修し、温かい雰囲気の人気店になっており、遠くからもお客さんが来るそうです。移住者や地元住民の雇用を生んでいます。

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◆ 「地方創生」と「地域包括ケア」の統合
智頭町は鳥取大学やNPO法人ドットファイブトーキョーなどが、昨年度から開始したプロジェクト「生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発」(研究代表 家中茂 鳥取大学地域学部 教授)にも協力しています。これは科学技術振興機構 社会技術開発センター(JST-Ristex)が委託をしている「持続可能な多世代共創社会のデザイン」という研究の一環で3年間に渡り行われます。

自伐林業、森林セラピー、森のようちえん、民泊など、森林や里山の多面的な価値を活用して智頭町が取り組んでいる"地方創生"事業(生業)と、住民相互の助け合いを基盤とした"地域包括ケア"福祉の統合モデルを模索することが、本プロジェクトの主眼です。今後もその進展を紹介していきたいと思います。


なお、森のようちえん「まるたんぼう」は、今年は東京都内にも自治体と連携して森のようちえんを開設し、智頭町の認知向上、関心を喚起し、智頭町への来訪、ひいては移住につながるような取り組みを実施する計画です。

都市と農山村をつなぐ 空と土プロジェクト
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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

LOHAS & Sustainable Style

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