世界農業遺産・椎葉村でつづく「焼畑」 (宮崎県椎葉村)

「焼畑」と聞くと、森を焼く環境破壊のイメージがありませんか?
椎葉の焼畑は、多様な作物を輪作栽培し、長期間の休耕期間を設ける循環型の農法で、古来から続けられ、手順や種が継承されている取り組みです。焼畑継承者である椎葉勝(しいば・まさる)さんの家では毎年毎年山を焼いてきました。毎年8月上旬、木材を伐採した跡地に火入れをし、ソバを蒔く。2年目はヒエやアワ、3年目小豆、4年目に大豆を、その後植樹を行い20~30年ほど休耕し、再び木材を伐採して焼畑を行うという仕組みになっています。若い森が維持されるのでCO2の吸収量も多い、むしろ環境保全型の取組と言えるでしょう。

昨年8月3日は、同地域が世界農業遺産に認定されて後の初めての火入れということもあり100人ほどが参加しました。村内の夜狩内(よかりうち)という地区でも認定を機に50年ぶりに焼畑が復活しました。
また、昨年度は「焼畑研究会」やシンポジウムの開催等を通じ、地元関係者の間では焼畑の後には広葉樹を植えて豊かな水源林を再生させていきたいと、森づくりへの関心が高まってきました。研究会では有識者や地元の長老などを講師に椎葉の焼畑について学び合い、併せて既存の文献等を調査し『椎葉の焼畑』という冊子や動画が制作されました。
※動画 https://www.youtube.com/watch?v=2pWOmr2cc3k


焼畑 火入れ
2017年8月3日。予定では9時から火入れが始まることになっていましたが、台風5号の接近で午後から雨が降ってくる予報でしたので早めに開始されました。私が現地に着いたときにはすでに火が入り始めていました。火入れ前に行う神事には立ち会うことができませんでした。

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火入前の神事

また、通常は火入れを行う場所の周囲に防火帯を作った後、火を上の方、周囲、下の方につけ、自然と中央部に燃え広がり、最後には自然と消えるのですが、今年は当日朝の小雨などもあり葉が湿っており、燃え広がることが無く、3割程度にとどまりました。

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人と人とのつながり
燃え残りが多いものの、午前で火入れを終えました。昼食前に参加者全員が自己紹介をします。隣村(熊本県水上村)のグループ(椎葉勝さんの指導を受け3年前から焼畑を実施)、地元住民や同地区ので焼き畑を継承するグループ「焼畑蕎麦苦楽部」のメンバー、宮崎大学教員、県庁・支所職員、周辺自治体や首都圏からの参加者など、総勢100人ほどが今年も参加しました。
 
「明日焼くヤボは今日焼け」という言い伝えがあるそうです。晴天が続き、さあ明日焼こうと思うと雨が降ることかままあることから、今日のうちに焼いてしまいなさい、という意味なんだそうです。勝さんは「3日に焼くことに決めて、こうやって多くの人が集まってきてくれる。天気も大事だが、人と人とのつながりも大切にしていきたい」と
  

昼食交流会そして直会(なおらい)
昼食はカレーや地元の新鮮野菜、漬物などを食べながら休憩・交流です。通常ですと午後からはソバの種をまくのですが、あいにくお昼の途中から雨が降ってきてしまい、午後の種まきは中止になりました。(その後、8日にソバの種まきが行われたそうです)そこで昼食後には引き続き直会が始まり、17時頃まで交流は続いたのでした。「ひえつき節」という椎葉発祥の民謡や、いくつかの歌が披露され、ショートスピーチなどもあり賑やかに楽しい時間は過ぎていきました。

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私は今年は首都圏から大人10人、子供4人で参加したのですが、同行された方たちには、何より地域の人たちとの交流が印象的だったようです。


焼畑蕎麦のコース料理
翌日の昼食には那須翔仁(なす・しょうじ)さんによる「焼畑蕎麦コース料理」をいただきました。
那須さんは、宮崎のお蕎麦屋さんで10年修行し、昨年春Uターン。昨年50年ぶりに焼畑を復活した夜狩内にお住いです。食を中心に地域づくりを担っていきたいと言います。夜狩内で栽培・収穫された蕎麦を使ってのお料理でした。ちなみに蕎麦の種は椎葉勝さんから譲り受けたものです。

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焼畑蕎麦料理。宮崎の郷土料理も


蕎麦好きが高じて蕎麦スイーツの製造・販売をされている小池ともこさん(そばの実カフェ「sora」)は椎葉の焼畑を見たくて、蕎麦が食べたくて東京からはるばる来訪されました。
那須さんの蕎麦を食べた感想は「香り深く、芳醇な香り、甘み、椎葉の山々の自然への感謝を感じながら頂きました」と。

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首都圏から参加された皆さんと椎葉勝さん


天候に左右される焼畑ですが、地域の人たちの思い、共感する人たちの思いが重なり、自然と共生する農法は今後も続いて行くでしょう
蕎麦は蒔かれて75日で収穫です。10月中旬には今年の新蕎麦が実ることでしょう。2年目のヒエ、3年目のアワなどもその頃が収穫の時期です。今年は焼畑雑穀の収穫にでかけてみたいと思います。

中国の農業遺産「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」(浙江省湖州市)

東アジア世界農業遺産学会
2017年7月11日~13日、中国の浙江省湖州市で「第4回東アジア世界農業遺産学会」(ERAHS)が開かれました。日本からも約50人が参加しました。会議は年に1回、中国・韓国・日本の持ち回りで開催されています。認定地域の研究者と地域(自治体等)が参加し、研究や実践の成果を共有しています。

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「世界農業遺産」(GIHAS:以下ジアスと表記)認定地域は中国では11か所、韓国では2か所あります。また、それぞれ国内認定制度があり、中国では「重要農業文化遺産」、韓国では「国家農漁業遺産」と呼ばれています。日本では「世界農業遺産」が8、今年から始まった「日本農業遺産」も8か所認定されています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1.html

世界農業遺産を認定しているFAO(国連食料農業機関)は、「すべての人々が栄養ある安全な食べ物を手にいれ健康的な生活を送ることができる世界を目指しています。
このため、FAOでは ①飢餓、食料不安及び栄養失調の撲滅、 ②貧困の削減と全ての人々の経済・社会発展、 ③現在及び将来の世代の利益のための天然資源の持続的管理と利用、 を主要な3つのゴールと定めています。」 


世界農業遺産創設の経緯
2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発のための世界サミット」(WSSD)で、途上国の伝統的な農業や土地利用システムは持続可能な開発に貢献すると提言したことに端を発しています。背景には、世界各国で食糧増産に伴い農地の集約化、栽培作物の単一化、機械化などが進む中で、特に途上国において固有の農林業システムが失われていってしまうことへの危機感がありました。そこで、農法だけでなく、景観、文化、生物多様性などを含め一つのシステムとして認定し、保全していこうというコンセプトが固まり、2005年に中国の「水田養魚(浙江省青田県)が最初の認定地域となったのでした

ジアスは当初はFAOの中でイニシアティブと呼ばれるプロジェクト的な位置づけでしたが、昨年からプログラムへと格上げされ、特にSDGs(持続可能な開発目標)との関わりにおいて、その役割への期待が高まっているところです。

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桑基魚塘(そうきぎょとう)システムとは
今回のERAHSでは12日の会議に続き、13日はエクスカーションで宿泊施設近隣にある荻港村の「桑基魚塘(そうきぎょとう)」システムや町並み、博物館などの見学をしました。ここは国内の認定制度である「重要農業文化遺産」に2014年に認定されており、目下、ジアス認定を目指しているそうです。

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浙江省湖州市にあるデルタ地帯では、明の時代(1368年~1644年)から池を掘り、堤を築き、その堤に桑の木を植え、その桑の葉で蚕を育て、池では桑の葉や草、蚕の糞などを餌に魚を養殖してきました。この循環農漁法の仕組みは「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」と名付けられています。

魚を養殖している池では、魚の糞が池の底に溜まり、これがバクテリアによって分解され養分に富んだ泥となり、その泥を年一回桑の木の根元にかけて桑の木の肥料としています。
池には定期的に酸素を取り込む装置を設置し、溶存酸素量を一定に保つなど良好な水質が保全され、魚に良好な環境を作りだしています。

しかし近年、化学繊維の発明・普及により生糸や絹織物の需要が激減し、桑基魚塘という伝統の自然循環農法も衰退し、2000年頃にはほぼ消滅という危機にさらされたそうです。そこで、この優れたシステムを保存するために生態系の修復や保護活動が始められ、桑基魚塘の景観がよみがえってきたそうです。

古い町並みを歩き、運河を渡ると養魚池のエリアが広がっています。池の周りを散策する道路もコンクリートが敷かれ整備されています。農機具の倉庫の壁面には絵が描かれ、またいくつかの池には魚種とその量が記された看板も立っていました。

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農村観光

環境の修復と並行して荻港村の中に「荻港漁荘」(Digangyuzhuang hotel)という複合施設が作られました。
荻港村は古くから「天国の真ん中に荻港がある。」と言われているそうで、美しく、歴史が古く、観光資源も豊かです。

「荻港漁荘」は敷地内に宿泊施設(200室)、1000人収容のイベントホール、会議室、飲食スペース、土産物店、淡水養殖エリアなどがあります。

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敷地内施設図

敷地内の池で養殖された魚や野菜なども食材とし、この地域の食文化を賞味することができます。糯打ち、米酒造り、豆腐磨き、果物摘み等の観光体験活動も提供されているそうです。地元住民を300人ほど雇用。多くの賞を受賞するなど荻港漁荘は湖州市の新しい農村観光・開発の新たなモデルとして注目されています。

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桑茶をはじめ、桑の葉の6次産業化にも注力

また、施設の中には「桑基魚塘博物館」があり、館内では、桑基魚塘の歴史の解説、養蚕、繭(まゆ)から生糸を紡ぎだす実演、淡水魚を中心とした食文化などが紹介されています。
船や漁具、絹製品、台所などが展示され、地域の昔ながらの生活文化を知ることができます。地域固有の農林漁業や地域の暮らしの知恵と技がそこにはあります。

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中国の農業遺産戦略
なお、中国には「ハニ族の棚田」(雲南省)や「トン族の稲作・養魚・養鴨」(貴州省)など、少数民族の固有な農林漁業システムがジアスに認定されている地域が複数あります。中国政府は国内の少数民族や各地に残る固有の農林漁業システムを発掘し、その数は約400にのぼります。その中から優れたものを国内制度に認定し(約80)、その後体制や環境、振興策を整備し、ジアスに申請するというプロセスを取っているようです。

日本は地域から申請があったものを、世界農業遺産等国内専門家会議で審査し、まずは日本農業遺産に認定、その中から優れたものを世界農業遺産に申請するというプロセスになっています。農業遺産に注目が集まるにつれ、各地で地元に固有な農林漁業の方法・技術、食文化・社会組織などの歴史をたどり、生物多様性に関して調査し、美しい農山漁村の景観を保全していこうという動きが本格化することは意味のあることだと思います。

みどりの風が吹く"疎開"の町(鳥取県智頭町)

一年ほど前、「たき火」をシンボルとしたライフスタイルについて書いたことがあります。
「たき火フェスタ」というイベントが2016年2月28日、島根県吉賀町柿木村にて開催されました。日本有数の清流である高津川の流域である津和野町、吉賀町、そして益田市の住民向けのイベントでした。

チラシの裏面には「いま、高津川流域ではIUターンをはじめ、多くの子育て世代家族の移住がふえています。それは、ここ高津川流域の豊かな自然の環境中で生活・子育てをしたいと考える親世代が増えているからです。そうした中で「高津川」「たき火」「子育て」「食」「先人の知恵」をキーワードに、親、子、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなで高津川流域の美味しいものを囲んでたき火であたたまり、語り合い、一緒に愉しい時間をすごしましょう」と書かれていました。

実際にイベントに参加してみると、まさにそのコピー通り、たき火を囲んで子供からお年寄りまで楽しそうに過ごしている姿がそこにありました。話を聞いてみると、IUターンなど移住者の方たちが多く、その人たちは新しい仕事として自伐林業や木質バイオマス活用、有機農産物の加工を行い、子育てに"森のようちえん"など屋外保育を利用しているというのです。

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◆ 森のようちえん「まるたんぼう」
森のようちえんといえば、鳥取県智頭町の「まるたんぼう」(2009年開始)が有名です。先日7年ぶりに智頭町を訪問し、その主宰者である西村早栄子さんと再会してきました。私が以前取材したのは東日本大震災前の2010年でした。震災後に智頭町にも30代の子育て世代のIUターンが増えました。その家族は子供を森のようちえんに通わせ、大人たちは森の仕事を始める人が少なくなかったそうです。今では3~5歳のクラスには26人が地元や鳥取市内などから通っていますが、その全員が移住者の子どもたちです。


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森で遊ぶ(2010年7月筆者撮影)


この7年間で、森のようちえんは全国各地に広がり、例えば長野県では、屋外での自然保育に注目し、県として「信州やまほいく(信州型自然保育)」という名称で制度化し、全域で推進しているところです。
県のホームページには「子どもの自己肯定感の向上に効果があるとされる森のようちえん等の自然保育を、戦略的な保育および幼児教育資源として活用し、豊かな子育て環境の整備を通じて子育てにおける保護者のストレス軽減を図り、さらに子育ての楽しさを実感していただくことで、少子化傾向の改善に取り組みます。」とあります。


森林セラピーにも注力
鳥取県智頭町は93%を森林が占める人口7,377人(2017年3月現在)の町です。電車で東京から行く場合、新幹線で姫路へ、そこから特急の乗り換え1時間ほどです。江戸時代から伝統的な育林技術と恵まれた気候条件のもとで、智頭スギを中心に長伐期林業を行ってきた歴史ある先進林業地です。また芦津渓谷は、春は新緑、秋は原生林の紅葉が全山を覆い、その雄大な渓谷美は日本屈指ともいわれています。

林業はもとより、2009年は「森のようちえん」開園(4月)、「森林セラピー推進協議会」設立(7月)、翌年4月「森林セラピー基地」の認定、2011年 「智頭町森林セラピー基地」グランドオープンするなど、森を活かした新しい事業に力を入れてきました。昨年度には東京の企業が2泊3日の「智頭町留学」を研修として行い、森林セラピーや農林業作業を体験するなど、いよいよ企業向けのプログラムに注力する計画です。
http://www1.town.chizu.tottori.jp/town/

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森を仕事にする「智頭ノ森ノ学ビ舎」
IUターンなど若手による森の仕事を作ろうと2015年9月に結成されたのが「智頭ノ森ノ学び舎」です。
町が町有林57haを無償で団体に貸与し、自伐林業の手法など林業を習得する研修を実施しています。

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    左)智頭ノ森ノ学ビ舎 代表 大谷訓大さん 右)鳥取大学 家中茂教授

メンバーが伐採した間伐材は町営プールの薪ボイラーに供給されています。また、町内では薪ストーブの利用も促進しています。地域通貨も活用されており、木材の地域での活用の仕組みが定着しつつあります。

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◆ ローカルビジネスの騎手「タルマーリ」
2015年6月に開業した人気のカフェ「タルマーリ」。私が同店を訪ねるのは3回目のことです。一回目は2011年に千葉県いすみ市、二回目は2013年に岡山県真庭市でした。小さなお子さんのいる渡邊格・麻里子夫妻は東日本大震災後に関西に移住しようと店を岡山に移転。ビールの製造には手狭だったことから、智頭町に再度移転したということです。

地元で採取した酵母を使った天然酵母パンや、クラフトビールの製造・販売、カフェの営業を行っています。廃校となった保育園の施設を改修し、温かい雰囲気の人気店になっており、遠くからもお客さんが来るそうです。移住者や地元住民の雇用を生んでいます。

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◆ 「地方創生」と「地域包括ケア」の統合
智頭町は鳥取大学やNPO法人ドットファイブトーキョーなどが、昨年度から開始したプロジェクト「生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発」(研究代表 家中茂 鳥取大学地域学部 教授)にも協力しています。これは科学技術振興機構 社会技術開発センター(JST-Ristex)が委託をしている「持続可能な多世代共創社会のデザイン」という研究の一環で3年間に渡り行われます。

自伐林業、森林セラピー、森のようちえん、民泊など、森林や里山の多面的な価値を活用して智頭町が取り組んでいる"地方創生"事業(生業)と、住民相互の助け合いを基盤とした"地域包括ケア"福祉の統合モデルを模索することが、本プロジェクトの主眼です。今後もその進展を紹介していきたいと思います。


なお、森のようちえん「まるたんぼう」は、今年は東京都内にも自治体と連携して森のようちえんを開設し、智頭町の認知向上、関心を喚起し、智頭町への来訪、ひいては移住につながるような取り組みを実施する計画です。

長野県をヘルスツーリズムの聖地に

近年「ツーリズム」への関心が高まっていますが、色々な種類がありますね。
「エコツーリズム」「グリーンツーリズム」「ヘルスツーリズム」など。
それぞれの意味を調べてみると・・・

エコツーリズムは、1980年代の後半に登場しました。それまでのマスツーリズムが自然環境を悪化させることがあることから「自然や人文環境を損なわない範囲で、自然観察や先住民の生活や歴史を学ぶ、新しいスタイルの観光形態」と定義されました。20014年に環境省が「エコツーリズム推進会議」を呼びかけ、以後、環境省が主導してきました。(出典:EICネット)

グリーンツーリズムは、「緑豊かな農山漁村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動の総称。都市住民の自然・ふるさと志向とこれに対応して豊かなむらづくりを進めようとする農山漁村の動き、特に、都市と農山漁村の交流を求める動きを背景として、農林水産省が主導。」しています。(出典:EICネット)都市と農山漁村の交流に重きが置かれていますね。

そして、ヘルスツーリズムは、「医学的な根拠に基づく健康回復や維持、増進につながる観光のことである。温泉療法や森林療法、海洋療法(タラソテラピー)のほか、主に医療行為を受けるための手段として行われるメディカルツーリズムなども広義の意味でヘルスツーリズムに含まれる。 近年、官公庁・旅行会社・地方自治体などが連帯して、ヘルスツーリズムに結びつけた観光資源開発が全国各地で行なわれている。」(出典:Wikipedia)とあります。


長寿日本一の長野県

2016年12月7日(水)、「健康長寿・長野県と池田町のヘルスツーリズムの未来を考える集い」が長野県池田町で開催されました。平日の午前にも関わらず200人を超える町民の方が集まり、関心の高さがうかがわれました。前半では長野県知事の阿部守一さん、ナグモクリニック総院長南雲吉則さんが講演されました。

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南雲先生は、がん専門医として30年にわたり尽力されてきました。「がんは早期発見・最新治療で克服できる」と言われてきたが、この30年で患者数は倍増しました。がんが増えた最大の原因は"食生活"であることに思い至り、食生活を見直すことで、次の30年にがん死亡率を半減させようと、近年は「がんから命を救う食事と生活術」を提唱。「命の食事プロジェクト」を発足しました。

長野県は長寿日本一です。阿部知事から長寿の理由として、野菜の摂取量が日本一であるとか、「ACEプロジェクト」など長野県が進めてきた長寿・健康政策について紹介されました。「ACEプロジェクト」の「ACEは脳卒中等の生活習慣病予防に効果のあるAction(体を動かす)、Check(健診を受ける)、Eat(健康に食べる)を表し、世界で一番(ACE)の健康長寿を目指す想いを込めたもので」県民運動を展開しています。


県内に11の森林セラピー基地

また、「森林セラピー基地」が県内に11あり、国内で最も多く、さらに「日帰り温泉」数も日本一です。今後は豊かな自然と健康的な暮らしをヘルスツーリズムに生かし、県内の観光や関連産業の活性化に繋げていくそうです。

森林セラピーとは、科学的に検証された森林浴の癒やし効果を、心身の健康や病気予防に生かす取り組みです。「森林セラピー基地」は、リラックス効果が森林医学の面から専門家に実証され、さらに、 関連施設などの自然・社会条件が一定の水準で整備されている地域で、NPO法人森林セラピーソサエティが認定。全国で62カ所となっています。


メンタルヘルス対策に森林の豊かな自然が有効

後半のパネルディスカッションでは長野県森林セラピーアドバイザーの浅原武志さんのコーディネートのもと、「花とハーブの町」を掲げる池田町の甕(もたい)聖章(きよあき)町長、地元でジャーマンカモミールの有機栽培、入浴剤等の製造、宿泊施設の運営を行う「カミツレの里」の北條(きたじょう)裕子社長、日本通運健康保険組合の安藤伸樹理事長らが登壇しました。
私も最後に「都市の人たちに池田町に来ていただき、花とハーブで元気になっていただきましょう」とコメント。

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「カミツレの里」の宿泊施設である「八寿恵荘(やすえそう)」は、森の中のジャーマンカモミール畑に隣接しています。オーガニックな食材を使った身体に優しいお料理、ジャーマンカモミールの入浴剤がたっぷり入った大浴場、オーガニックコットンのお布団、地元産材の内装、地元材チップを活用したボイラーでの床暖房、薪ストーブなどがあり、アジア初のBIO HOTEL認証を取得しています。2016年グッドデザイン賞も受賞されました。
(※関連記事 http://soratsuchi.com/owada/2013/09/post-27.html )


「カミツレの里」は30年にわたりジャーマンカモミールの有機栽培を行い、入浴剤などの製造を行い、池田町が掲げる「花とハーブの里・池田」の中核を担ってきました。そして昨年度から池田町は地方創生として「ハーバルヘルスツーリズム」に取り組んでいます。

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八寿恵荘のツリーハウス。今年も雪景色に


2015年12月に、労働安全衛生法の一部を改正する法律(ストレスチェック義務化)が施行され、都市部企業では農山村が有する"癒し効果"にニーズが高まっています。池田町の「カミツレの里」もアレルギーやストレスに悩む都市部の個人だけでなく、企業の利用も始まりました。このような背景からも「森林セラピー」やハーバルヘルスツーリズムなどヘルスツーリズムは注目されているのです。


癒しの森のまちづくり・長野県信濃町

コーディネーターを務めた浅原さんは、今年3月31日まで長野県信濃町の職員でした。役場在職中は「森林セラピー」(2006年に国内で最初に認定された基地の一つ)を核に、都市部の企業と協定を結び、保養やメンタルヘルス、研修、CSR活動などを受け入れてきました。特に重要なのは宿や、森林を活かしたヘルスケアのガイドです。もともと信濃町はスキーリゾートのメッカでしたのでペンションが沢山あり、そのオーナーや、移住されてきた方たちが各種自然療法について学び"森林メディカルトレーナー"(町認定)としてガイドを務めるようになりました。今では協定企業は47社、年間のべ5,000人を超える従業員やその家族が信濃町を訪問し、心身の健康に欠かせない存在になっています。

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水辺は水療法にも

また、信濃町には作家で冒険家であるCWニコルさんの「アファンの森」もあります。30年かけて豊かな森を再生されました。森林セラピーをはじめ、"癒しの森"をコンセプトにまちづくりに取り組んでいるのが信濃町の地域創生の特徴です。
森や自然の力を活かしたメンタルヘルスケアやヘルスツーリズム、今後も活用が広がっていくことでしょう。

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アファンの森でガイドをする高力(こうりき)さん

農山村の暮らしを体験する「農泊」 (大分県宇佐市安心院)

近年、都市部居住者のみならず、海外の人からの人気が高まっている宿泊形態に「農家民泊」(農村民泊とも)があります。
私もここ数年は宮崎や大分の「世界農業遺産」エリアにうかがうことが多いのですが、なるべく農泊や民宿など、地域の人々の暮らしがわかるところに泊まるようにしています。そうした宿は、その地域ならではの旬の食材を使った郷土料理を楽しみながら、農家のお母さん、おとうさんと親しくお話ができるからです。

先日、大分県宇佐市安心院(あじむ)で約20年前から農泊をしている時枝仁子(ときえだ・まさこ)さんの「百年乃家ときえだ」に、宇佐市内の両合(りょうあい)棚田の再生に取り組む石井康美(こうみ)さんと一緒に泊まりました。
時枝さんは「農林漁家民宿おかあさん100選」にも認定されています。

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「百年乃家ときえだ」


安心院におけるグリーンツーリズムの理念

旧安心院町では1996年に「グリーンツーリズム研究会」が発足し、「農村民泊」に全国で初めて取り組み、都市と農村が交流するグリーンツーリズムの先駆けとして注目を集めてきました。現在は「NPO法人安心院グリーンツーリズム研究会」が事務局を担い、国内外からの滞在者の仲介や、研修を行っています。

町内で開催される恒例イベントの「ワイン祭り」の来訪者に、B&B(朝食とベッド)を提供し始めたことが、「会員制農泊」のはじまりとされています。その後、大分県がルールを制定し、農泊は広がり定着していきました。その数は年間1万人を超えるといいます。

その理念は以下の通りです。少し長いですが引用させていただきます。
 

「グリーンツーリズムとは、地域に生きる一人一人が農村での日頃の生活を楽しく送る中で、外からのお客を温かく迎え入れることのできる《豊かに輝く農村》を目指した、新しい農村経営を求める運動である。

グリーンツーリズムとは、都市(消費者)と農村(生産者)のこびることのない心の通った対等な交流を通じ、「知縁(情報で結ばれた親類)関係」となり、共生の道を探すものである。

グリーンツーリズムとは、村における連帯意識を、生活を通し景観から産業まで一体的とりくみを職業的かつ年代的垣根を越えた連携を図る中に行うことにより、地域経済の発展と町全体の活性化を目指すものである。

グリーンツーリズムとは、閉ざされた農村社会の過去のイメージを払拭し、農村婦人の地位と意識の向上ならびに自立を図り、男女共同にして成り立つ「ムラづくり」と魅力的家族関係を作る運動である。

グリーンツーリズムの根付いた農村には、恵みに豊かな自然環境が大切に守られていて、
その中で生きる人々の自信に満ちた笑顔がある。
それを求め、心のせんたくのために足繁く訪れる旅人により町の品位は高まり、経済も潤すことができるものである。

グリーンツーリズムの普及により町が息づけば、次世代を担う子供たちに明るい夢を与え、誇りを持つことができる。」


「両合棚田」でも農泊を始めたい

「国東半島宇佐地域世界農業遺産」認定地域である宇佐市院内(いんない)地区では、今年「両合(りょうあい)棚田再生プロジェクト」が始まりました。そのプロジェクトの中心メンバーの一人が石井康美(こうみ)さんです。60代後半ですが、20歳で農家に嫁いでから約50年、牛、シイタケ、林業といった仕事をしながら3人の子供を育て、義母の介護をし、ようやく少し自分の時間が取れるようになってきたことから、棚田再生プロジェクトに熱心に参画しています。


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田植えをする石井康美さんと筆者


旧院内町にある「両合棚田」は棚田100選にも選ばれている棚田で、石橋のかかる小さな川を挟み、両側に棚田が広がるという景観です。かつては写真撮影のスポットとして人気でしたが、近年は獣害がひどく、約8割が耕作放棄状態になっていました。それを、世界農業遺産認定を機に、再度再生させたいと、地域の人たちが立ち上がりました。10年ぶりに復田した田んぼもあり、秋には美しい景観が一部蘇ってきました。

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今年2月の棚田の様子。8割が耕作放棄状態


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9月24日の稲刈り。美しい景観が戻ってきた


そして康美さんはこの両合棚田に泊まってもらえるよう、「私も農家民泊をしてみたい」と思うようになり、勉強の為に一緒に時枝仁子さんのお宅に泊めていただいたわけです。

「両合棚田再生プロジェクト」紹介 

「百年乃家ときえだ」は年間450人(修学旅行250人、国内一般100人、外国人100人)ほどが泊まる人気の農家民泊です。一緒に夕飯の支度をしながら(郷土料理づくりの体験もプログラムの一つです)農泊のことを教えていただきました。また、夕食はスッポンなべをつつきながら、農家に嫁いだ女性の人生や暮らし、国内外の人たちとの交流の楽しさなど色々とお話しをうかがいました。

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時枝夫妻と鍋をつつきながら


農村の女性が輝いていられるように

そして翌朝、部屋にコーヒーを持ってきてくださった仁子(まさこ)さんが「女性活躍ということで大臣や知事に女性がなるにもいいけれど、農家の嫁、女性が輝ける社会になってほしい」と。

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時枝仁子さん


世界農業遺産を支える農林業家、がんばってきた女性たちを、応援したいという気持ちで胸が熱くなりました。

都市と農山村をつなぐ 空と土プロジェクト
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プロフィール

大和田順子さん

LOHASビジネスプロデューサー/
LBA(ロハスビジネスアライアンス)共同代表/
NPO環境立国 理事

東急百貨店、東急総合研究所、ザ・ボディショップ、イースクエア等を経て2006年4月に独立。
低炭素で持続可能な社会の実現に向け、人・地域・地球の健康を指向する新しい価値観LOHAS(ロハス)の考えに基づき、講演・研修や執筆、コンサルティング、NPO活動を通じて、ライフスタイル・ビジネス・社会の変革に情熱を注いでいます。

LOHAS & Sustainable Style

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世界農業遺産・椎葉村でつづく「焼畑」 (宮崎県椎葉村) - 2017.08.12
中国の農業遺産「桑基魚塘(そうきぎょとう)システム」(浙江省湖州市) - 2017.07.20
みどりの風が吹く"疎開"の町(鳥取県智頭町) - 2017.03.31
長野県をヘルスツーリズムの聖地に - 2016.12.28
農山村の暮らしを体験する「農泊」 (大分県宇佐市安心院) - 2016.11.03
2年目を迎える「広野わいわいプロジェクト」(福島県広野町) - 2016.06.30
熊本地震・一歩先、二歩先へ - 2016.04.29
世界遺産の茅場(かやば)を再生する。合掌の森再生プロジェクト(富山県南砺市五箇山) - 2016.03.31
食と農と福祉の小さな経済循環(島根県益田市真砂地区)  - 2015.12.20
温泉熱を利用したエネツーリズム(宮城県大崎市鳴子温泉) - 2015.08.22
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